はじめに
顧客満足度調査(CS調査)を進めていく中で最初に戸惑うのは、「そもそもどこから手をつければいいのか?」という点かもしれません。
実際、
「調査設計に自信が持てない」
「質問項目の作り方がわからない」
「結果をどう活用すればよいのか迷う」
といった悩みをよく聞きます。
この解説ページは、そうした不安や迷いを少しずつ解消しながら、企画・設計・実施・分析・活用までのステップを負担なく進めていけるような構成にしています。ご自身の状況にあわせて、興味のあるところから読み進めてください。
[読み進め方の例]
| 状況 | 読み進め方の例 |
|---|---|
| 初めてCS調査を担当する | 1章 → 2章 → 3章 |
| まずはアンケートの質問から作りたい | 3章からスタート |
| 分析や活用が課題になっている | 5章 → 6章 |
さらに章の終わりごとに、より詳しく学べるコラムなどへのリンクを紹介しています。
こちらは「もう少し詳しく知りたい」と感じたタイミングで活用してください。
- 1. 顧客満足度調査(CS調査)とは?
- 1.1. 顧客の期待は静かに変化し続ける
- 1.2. 満足と継続は必ずしも一致しない
- 1.3. 調査はゴールではなく“スタート”
- 2. 顧客満足度調査の流れ――調査設計からスタート
- 2.1. 顧客満足度調査でよくある失敗(設計段階)
- 2.2. 調査目的を決める
- 2.3. 対象者とタイミングを整理する
- 2.4. 調査の実施方法を決める
- 3. 調査票設計
- 3.1. 質問設計の考え方
- 3.2. 評価方法は目的に合わせて決める
- 3.3. 自由回答は“気づき”の宝庫
- 3.4. 満足度以外の重要指標――NPSやCSI
- 4. 調査の実施と回収
- 4.1. 依頼文は“調査の入り口”になる
- 4.2. 回収率は工夫次第で大きく変わる
- 4.3. 内製と外部委託の選び方
- 5. 分析の基本――顧客満足度調査の結果をどう読むか
- 5.1. まずは“全体の傾向”をつかむ
- 5.2. 改善の優先順位を見つける
- 5.3. 自由回答から“声”を拾う
- 5.4. (必要に応じて)顧客データと統合する
- 6. 結果の共有と改善につなげる
- 6.1. 結果の伝え方を工夫する
- 6.2. 改善の優先順位を整理する
- 6.3. 継続的な仕組みにする
- 7. 顧客理解を深め、施策の精度を高める
- 7.1. “表層ではなく背景を読む”という視点
- 7.2. インサイトが施策検討の「軸」になる
- 7.3. 完璧に分類しようとしなくてよい
- 8. 実務の応用:BtoB と BtoC でどう変わる?
- 8.1. BtoB向けの顧客満足度調査
- 8.2. BtoC向けの顧客満足度調査
- 8.3. どちらにも共通する“続けるための視点”
顧客満足度調査(CS調査)とは?
顧客満足度調査(CS調査)とは、顧客が製品・サービスや対応をどのように評価しているかを把握し、その結果を改善や関係性強化に活かすための調査です。
「お客様の声を定期的に確かめるためのアンケート」のように思われがちですが、アンケートを用いて数値やコメントを収集すること自体が目的ではありません。調査を通じて顧客がどのような点に価値を感じ、どこに不満や期待とのズレが生じているのかを把握し、今後の改善や意思決定に活かすことが重要です。
こうした考え方を踏まえると、顧客満足度調査の主な目的は、次のように整理できます。
- 顧客が評価している点、評価していない点を把握する
- 改善すべき優先課題を整理する
- 顧客との関係性や継続意向を確認する
- 施策や取り組みの効果を検証する
これらは単に数値を確認するためではなく、「どこに手を打つべきか」を判断するための情報を得ることを目的としています。
顧客満足度調査はBtoB・BtoCを問わず幅広い業種で活用されており、調査の設計や活用方法によって、得られる成果は大きく変わります。
まず、“なぜ調査をする必要があるのか”から、一緒に整理していきましょう。
顧客の期待は静かに変化し続ける
製品やサービスを使っていただく中で、お客様の中には「こうであってほしい」「これは当たり前」といった期待が形成されていきます。
この期待は「製品品質」だけでなく、「受付対応」「納期」「連絡のスムーズさ」「アフターサポート」など、さまざまな接点に影響します。
そして、この期待が満たされているのかどうかを知ることが、改善の第一歩です。
満足と継続は必ずしも一致しない
実務を見ていると「満足している」と回答したお客様が離れていくケースがあります。
その背景には、声を上げず静かに離脱していく“サイレントマス(Silent Mass)”と呼ばれる層の存在があります。
調査を行うことでこのサインを早めにキャッチできるようになります。
調査はゴールではなく“スタート”
調査を実施したあと最も大切なのは、「点数を見ること」よりも「その結果をどう使うか」です。
調査結果は、
- 改善の優先順位を決める
- 社内で認識をそろえる
- 顧客理解を深める
といった行動につなぐための材料になります。
【さらに詳しく知りたい方へ】
「顧客満足」の考え方についてより詳しく解説した関連コラムがあります。必要に応じてこちらも参考にしてみてください。
顧客満足とは何か?──“使える調査”にするために知っておきたい理論的視点
顧客満足度が高ければ継続する?──9割はYES、でも残りの1割が見落としの盲点に
顧客満足度調査の流れ――調査設計からスタート
この章では顧客満足度調査の全体像と、調査設計の考え方を整理します。
顧客満足度調査は一般的に次の5つのステップで進められます。
- 調査の目的を整理する
- 対象者・調査タイミングを決める
- 質問項目を設計する
- アンケートを実施・回収する
- 結果を分析し、改善につなげる
調査をスムーズに進めるために重要なのが、最初の3ステップである「調査設計」です。
顧客満足度調査でよくある失敗(設計段階)
顧客満足度調査でよく見られる失敗には、次のようなものがあります。
- 回答率が低く、結果に偏りが出てしまう
- 数値は出たものの、具体的な改善につながらない
- 個別の要望対応に終始し、全体改善につながらない
これらの多くは調査そのものではなく、「設計段階での考え不足」から生じるケースです。
調査の設計段階から「どう活用するか」を意識しておく必要があります。
調査設計は次の順番で考えると整理しやすくなります。
[調査設計の流れ]
- 調査目的を決める
- 対象者とタイミングを整理する
- 調査の実施方法を決める
以下、順に読み進めながら整理していきましょう。
調査目的を決める
ここで扱う「調査目的」は、冒頭で整理した目的を「実務としてどのように具体化するか」という視点です。
最初のステップは「なぜ実施するのか」を言葉にすることです。
目的は、質問内容、調査対象者、分析の方法、報告書の作り方のすべてに影響します。
[調査の目的と方針(例)]
| 主な目的 | 調査の方針 |
|---|---|
| 現状把握が目的 | ベーシックな満足度評価が中心 |
| 改善領域の特定 | 重要度・影響度分析を意識 |
| 解約(離脱)防止 | 不満要因・自由回答の分析が重要 |
このように、方向性が定まると調査を進めやすくなります。
対象者とタイミングを整理する
対象者は「聞きたい人」ではなく、“意思決定に必要な視点を持つ人”です。
BtoBでは、顧客企業の担当者、意思決定者、実際に製品・サービスを利用するエンドユーザーなど、役割ごとに評価が変わることがあります。
また、BtoCの場合も購入者と実際の利用者が異なるケースは少なくありません。
調査の目的に合わせて対象者を選ぶ必要があります。
なお、新規購入顧客の場合には十分な利用経験がなく評価できないことがありますので注意が必要です。
どうしても新規ユーザーの声も聴きたい場合には、満足度調査とは別に、購入理由なども問う新規購入者調査を別途実施する方が、より有益な情報を得ることができるでしょう。
調査の実施方法を決める
調査の実施方法には、Web、郵送、面接調査など複数の手法がありますが、正解は一つではありません。
それぞれの手法にはメリット/デメリットがあります。
調査手法を選ぶ際は「コスト」「スピード」「対象との適合性」の3つの観点で検討するのが有効です。
[手法選択の視点]
| コスト | 郵送は印刷・発送費用がかかるが、Webは低コスト。 |
| スピード | Webは即時回収が可能。郵送は回収まで数週間を要する。 |
| 適合性 | 高齢層や一部のBtoB取引先では郵送が有効。若年層や消費者一般にはWebが効果的。 |
【さらに詳しく知りたい方へ】
顧客満足度調査の設計ステップについて実務視点からさらに掘り下げたコラムです。こちらも参考にしてみてください。
調査手法の選び方──コスト・スピードと適合性の視点から
郵送調査活用法:最高の成果を得るための実践的ノウハウ
調査票設計
満足度を「どのように聞けばよいのか?」悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
調査票の質は調査全体の成果に直結します。
質問項目が整理されているだけで分析がしやすくなり、結果が社内で受け入れられやすくなります。
質問設計の考え方
アンケートの質問を作る際は、次の視点でチェックすると整理しやすくなります。
- 評価対象が明確か?
- 改善につながる聞き方か?
- 回答者の負担が大きくなっていないか?
特に、1問の中に複数の意味が含まれてしまうと分析時に困ることがあります。
評価方法は目的に合わせて決める
満足度を聞くときによく使われるのが5段階評価です。
満足~不満の範囲を以下のような5段階で聞いているのをよく見かけます。
| 非常に満足 | やや満足 | どちらともいえない | あまり満足でない | まったく満足でない |
| 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
日本では「どちらともいえない」を選ぶ人の割合が高くなりがちですので、満足のレベルを詳しく調べたい場合には、「どちらともいえない」を外すのも有効な方法です。
自由回答は“気づき”の宝庫
自由回答を1〜2問入れるだけでも結果の深みが大きく変わります。
「最後に、どのようなことでも結構ですので・・・」と付け足すのではなく、たとえば、満足度の5段階評価のあとでその評価理由を尋ねるようにすると、自由回答から改善のヒントが見つかることがよくあります。
満足度以外の重要指標――NPSやCSI
顧客満足度調査で使われる指標には、満足度の他にNPS(Net Promoter Score)、CSI (Customer Satisfaction Index)、CES (Customer Effort Score)などがあります。
| 指標 | 内容 | 特徴・メリット |
|---|---|---|
| NPS (ネットプロモータースコア) | 友人・知人への推奨意向 | シンプルで直感的に理解しやすい |
| CSI (満足度インデックス) | 総合満足度・継続意向などの複数指標を統合 | 測定誤差が少なく、精度が高い |
| CES (顧客努力指標) | 顧客が問題を解決する際の「努力の度合い」を測定 | コールセンター対応や購入プロセス改善に利用できる |
これらの指標は適材適所の考え方で、調査の目的や活用シーンに応じて使い分けることが重要です。
【さらに詳しく知りたい方へ】
ここまでで基本の流れは理解できますが、「もう少し深掘りしたい」「実務で使う場面を想像したい」という場合は次のコラムも参考になります。
アンケートの5段階評価、正しく使えていますか?調査のプロが徹底解説
アンケートの真価は聞き方にあり!改善のヒントを引き出す方法
調査の実施と回収
いよいよ調査の実施=「実査」の段階に進みます。
実査のステップに沿って、押さえておきたい考え方や工夫を整理します。
依頼文は“調査の入り口”になる
依頼文は回答者との最初の接点です。
丁寧に依頼文を整えることで回収率や回答内容の質が変わることがあります。
依頼文をつくる際は次の視点から見直してみてください。
- 調査の目的が伝わっているか?
- 回答がどのように活用されるか示しているか?
- 所要時間・締切など、回答者が知りたい情報が明確か?
「理由がわかると人は行動しやすくなる」──これはアンケートも同じです。
[Webアンケートの依頼文例]
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素より当社製品をご愛顧いただき誠にありがとうございます。
このたび、今後の製品改善の参考にさせていただきたく、お客様アンケートを実施することとなりました。
お忙しいところお手数をお掛けいたしますが、忌憚のないご意見を賜りたく、ご協力のほどよろしくお願い申しあげます。
敬具
【ご回答に際してのお願い】
アンケートは全部で10問、所要時間5~10分程度です。
以下のURLからアクセスして、○月○日(○曜日)までにご回答ください。
https:xxx.xxx
ご不明点等ございましたら、下記アンケート事務局までお問い合わせください。
アンケート事務局 メール:cssurvey@xxx.xxx 電話:xxx-xxxx-xxxx
回収率は工夫次第で大きく変わる
回収率は「運任せ」ではなく、事前準備と配信設計で変えられる要素です。
よく使われる施策としては、
- 回答締切前のリマインド配信
- 回答完了にかかる想定時間の明示
- スマホなどのモバイル端末で回答できる形式にする
といった工夫があります。
一度ですべて行う必要はありません。
まずはできる範囲で試し、改善につなげていけば大丈夫です。
内製と外部委託の選び方
調査を進める際、「どこまで自社で行い、どこから外部に依頼すべきか」と迷うことがあります。
外部化は「丸投げ」ではなく、社内と外部の役割分担を整理することがポイントです。
「集計・分析だけ依頼し、実査は社内で実施」のような部分的にプロを活用する“ハイブリッド型”の進め方があります。
[自社内製と外部委託の比較表]
| 観点 | 自社内製 | 外部委託 |
|---|---|---|
| コスト | 費用を抑えやすい | 投資は必要だが品質・再現性が高い |
| 工数・負担 | 社内リソースを多く必要とする | 実務負担を大きく軽減できる |
| 専門性 | 調査経験が浅い場合は手探りに (やり方次第で、経験の蓄積ができる) | 調査設計〜分析までプロが対応 (丸投げだと、社内にノウハウの蓄積がない) |
| スピード・柔軟性 | 社内調整に時間がかかることも | スケジュール管理や調整も任せられる |
| 成果の活用 | データをどう活かすか悩むことも | 分析レポート+改善提案まで支援 |
| 向いているケース | 小規模・簡易な調査からはじめたい 調査経験者が社内にいる 限られた予算でトライしたい | 顧客の声をしっかり活かしたい 初めての調査で失敗したくない 分析や改善提案も含めて任せたい |
【さらに詳しく知りたい方へ】
回収率向上策について「もう少し具体的に知りたい」と感じた方は次のコラムをチェックしてみてください。
アンケートの回収率向上: 調査の質を高める実践テクニック
分析の基本――顧客満足度調査の結果をどう読むか
調査が終わると次は「分析」の工程に進みます。
よく聞くのが以下のようなお悩みです。
「数字を見ても、何を読み取ればよいかわからない…」
「結果を集計しただけで終わってしまう…」
分析は専門的なスキルが必要な領域ではありますが、最初から複雑な手法を使う必要はありません。
ここでは分析を進めるための基本ステップを整理し、「何から読み取り、どう解釈すればよいのか」を丁寧に解説します。
まずは“全体の傾向”をつかむ
最初のステップは集計結果をざっくりと俯瞰することです。
細部より全体像をつかむことを意識して、たとえば、
- 平均値はどの程度のレベルか?
- 高評価/低評価の偏りはあるか?
- どの項目で差が出ているか?
をみていくことです。
全体的な傾向を把握できれば分析の視点が自然と定まってきます。
改善の優先順位を見つける
次にどこから改善すべきかを見極めていきます。
改善の優先順位を整理する際に役立つ考え方として重要度や影響度の視点があります。
重要度分析(キードライバー分析)を行うと、顧客満足度を向上させるためには「どの要素の影響が大きいのか?」を明確にすることができます。
重要度と満足度を掛け合わせてみたときに「重要度が高いにもかかわらず満足度が低い」ところがあれば、そこが弱みであり最優先で改善に取り組む必要があります。
満足度が低くても重要度も低いようであれば、改善の優先度はそれほど高くはない(少なくとも、最優先ではない)と考えられます。

自由回答から“声”を拾う
自由回答は数値だけでは見えない“背景”を教えてくれます。
- なぜ評価が高いのか?
- どこに不満を感じたのか?
- どの接点が印象に残ったのか?
量が多い場合は似た内容をグルーピングして整理すると改善方向が見えやすくなります。
(必要に応じて)顧客データと統合する
特にBtoBやCRM活用企業では調査データと顧客属性情報を統合することで、「利用年数ごとの満足度比較」「顧客ランク別の違い」「導入プロセス別の特徴」など、より踏み込んだ洞察を得ることができます。
[BtoBにおける顧客属性情報を活用した分析(例)]
| 顧客属性と調査データの組み合わせ | 活用方法 |
|---|---|
| 「業種 × 満足度」 | 業種ごとの評価の違いを分析し、ターゲット戦略を見直す |
| 「利用期間 × 継続利用意向」 | 長期継続利用企業の特徴を把握し、新規顧客の育成戦略を策定 |
| 「回答者の役割 × 満足度」 | 意思決定者と実務担当者の評価の差を分析し、営業アプローチを改善 |
【さらに詳しく知りたい方へ】
以下のコラムでは具体的な分析例も交えて説明していますので、必要に応じてこちらも参考にしてみてください。
顧客満足度調査で見るべき「重要度」とは?
結果の共有と改善につなげる
調査は「実施して終わり」ではありません。
むしろ、ここからが本番です。
調査結果をどうまとめ、どのように社内で共有し、改善のアクションにつなげていくのか。
多くの企業でこの段階が課題になります。
ここでは社内浸透と改善プロセスづくりの考え方を整理します。
結果の伝え方を工夫する
PowerPointやレポートにまとめる際は、“理解してもらう”ではなく“納得してもらう”ことを意識すると伝わり方が変わります。
そのためには、
- 目的と背景
- 主要な示唆
- 行動への橋渡し
を明確にすることが大切です。
改善の優先順位を整理する
改善案はすべてを一度に取り組む必要はありません。
次の視点で優先順位を整理すると合意形成がスムーズになります。
- インパクトは大きいか?
- 実施の難易度はどうか?
- 顧客にとって意味があるか?
改善計画が整理されると社内の動きが前に進みやすくなります。
継続的な仕組みにする
改善施策が実行されたら、その結果がどう変化しているのかを確認するために、次回調査の位置づけも整理しておきましょう。
“測る → 受け止める → 改善する → 確かめる”
この循環が生まれると調査が組織文化として根づきはじめます。
【さらに詳しく知りたい方へ】
調査から“継続的に成果を生む仕組み”を作る方法について紹介したコラムです。
市場調査をビジネスに根付かせる──活用と継続のコツ
顧客理解を深め、施策の精度を高める
改善の優先順位と進め方が整理できたら、次は「どのような施策が有効なのか」を考える段階です。
顧客満足度調査ではここで迷いやすい傾向があります。施策の精度は“何を改善するか”ではなく、“なぜそう感じられているのか”を理解できているかどうかで変わるためです。
この章では、自由回答や顧客の声をもとに施策の方向性を見極めるための視点を整理します。
第5章で「自由回答は改善のヒントが詰まった情報源」であるとお伝えしました。
しかし実務では自由回答の扱い方に迷うケースが少なくありません。
たとえば、次のような状況です。
「◯◯を改善してほしいという声が多いので対応したい」
「具体的な改善要望が上位に出ているので、これらを施策にすべきでは?」
一見妥当な判断に思えますが、自由回答に書かれた内容をそのまま施策に落とし込むことには注意が必要です。
理由は、顧客の声として表面に出てくる内容はあくまでも“症状や表現された不満”であり、それが生まれる背景にはより深い心理的な価値(インサイト)が存在することが多いためです。
“表層ではなく背景を読む”という視点
自由回答を分析していると一見バラバラに見える意見に触れることがあります。
しかし、その背後にある理由・動機・期待に目を向けると別の景色が見えてきます。
たとえば、
「対応が遅い」
「もっと進捗を知らせてほしい」
「依頼後、状況がわからず不安だった」
これらは異なる表現に見えますが、実は背景にある心理は共通しています。
――ただ待たされるのではなく、見通しを持って安心したい。
この視点に気づくと、求められる施策は「対応スピードを上げる」ではなく、
- 状況共有の改善
- 進捗の可視化
- 期待調整の仕組みづくり
といった体験改善(カスタマー・エクスペリエンスの設計)に転換します。
インサイトが施策検討の「軸」になる
同じ不満でも背景にある心理価値が整理できると、改善の方向性が個別対応ではなく、より幅広い顧客に効果が及ぶ再現性のある施策に変わります。
つまり、
数値 (What:何が起きているか?)
+
自由回答 (Why:なぜ起きているのか?)
↓
施策 (How:どのように改善するのがよいか?)
という順序で考えることで改善の精度が高まり、顧客の体験価値向上につながりやすくなります。
完璧に分類しようとしなくてよい
初めから心理分析しようと構える必要はありません。
まずは自由回答を眺めながら、
「なぜこの声が生まれるのだろう?」
「どんな“期待”が満たされていないのだろう?」
と問いを置くだけでも十分です。
その問いが、改善施策を個別要望への対応ではなく、顧客体験の本質改善へと導く第一歩になります。
実務の応用:BtoB と BtoC でどう変わる?
ここまでの章では、顧客満足度調査の基本となる「設計 → 実施 → 集計 → 分析 → 活用」の流れを整理してきました。
ここから先は少し視点を広げて、“実務として運用していく際に押さえたい違い”について触れていきます。
顧客満足度調査は対象となる顧客が「企業(BtoB)」なのか、「一般消費者(BtoC)」なのかによって、設計や活用のポイントが変わってきます。
BtoB向けの顧客満足度調査
BtoB領域では調査の対象が「企業」である一方、回答者は複数の役割を持つ“人”です。
そのため、アンケート設計や分析では「誰の視点なのか」を丁寧に扱う必要があります。
回答者の立場・役割によって次のように評価軸が変わることがあります。
[回答者の役割別評価軸(例)]
| 立場・役割 | 重視されやすい点 |
|---|---|
| 購買・調達担当 | 価格・契約条件・納期・リスク |
| 現場利用者 | 使いやすさ・機能性・安定稼働 |
| 技術/研究部門 | 技術知識・開発/検証支援 |
| 経営層 | 信頼性・継続性・サービス姿勢 |
この違いは分析時の読み違いを防ぐヒントになります。
BtoC向けの顧客満足度調査
一方、 BtoC調査では回答者は一人ひとりの生活者です。
そのため、評価軸は“体験の心地よさ”や“利用時のストレス”といった心理的要素が含まれることが多くなります。
また、Webサイト、店舗、商品、スタッフ対応、お客さまセンターなど、BtoCでは体験経路が多岐にわたり、結果が散らばりやすくなります。
そのため、評価を読むときは次の視点が役に立ちます。
- どこで体験がはじまったのか?(入口)
- どの接点で感情が動いたのか?
- 最後の印象(終了体験)はどうだったか?
どちらにも共通する“続けるための視点”
BtoB・BtoCのどちらにも共通する視点をお伝えします。
- いきなり完成形を目指さずに“スモールスタート”でもよい
- 調査は「目的の確認 → 運用 → 調整」の繰り返し
- “続けるほど価値が育つ仕組み”
調査は一度で終わるものではなく、改善や対話の「入り口」になります。
できるところから少しずつ歩みながら調整していくことで、調査は企業の強みになっていきます。
【さらに詳しく知りたい方へ】
以下のページで、BtoB向け、BtoC向けのそれぞれについて、顧客満足度調査の実践的な活用法を紹介しています。
さらに先へ進みたい方へのご案内
ここまでお読みいただきありがとうございます。
少しずつイメージが整理され、「調査をはじめたい」「改善に使いたい」と思われた方に向けて、次のステップをご用意しています。
無理にすべてを進める必要はありません。
気になるものからできるペースで進めていただければ大丈夫です。
もう少し深く体系的に理解したい方へ
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