企業や自治体を狙った不正アクセスによる個人情報の漏えいが頻発しており、中には1,000万件を超える大規模な事故も発生しています。現時点では、金銭面を含む深刻な二次被害は、おおやけには報告されていないものの、一度流出した個人情報がいつか悪用されるのではないかという不安は拭えません。
個人情報保護委員会や国家サイバー統括室、業界団体などが相次いで注意喚起を行っていますが、サイバー攻撃の高度化・多様化に対し、対応が後手に回っている感は否めません。2026年10月7日に個人情報保護委員会が公表した注意喚起でも、技術的安全管理措置の見直し案(2027年4月確定予定)が先行して示されました。
●個人情報保護委員会「大規模な漏えい等事案を踏まえた対応について(注意喚起)」(令和8年10月7日公表)
不審なアクセスが急増し、個人情報漏えいのリスクが高まる
個人情報保護法では、不正アクセスによる個人情報の漏えい(そのおそれを含む)は、件数にかかわらず個人情報保護委員会への報告義務があります。しかし、大きく報道されるのは社会的影響の大きい大規模なインシデントが中心であり、個人情報漏えいの実態は、報道される事案だけでは把握できません。
警察庁によると、同庁が設置したセンサーで検知した脆弱性探索などの不審なアクセスは、2026年上半期に1日・1IPアドレスあたり13,687件となり、前年同期比で約1.5倍(50.7%増)に急増しました。その大部分は海外からのアクセスです。不審なアクセスの増加が、そのまま不正侵入や個人情報漏えいの増加を意味するわけではありません。しかし、サイバー攻撃の脅威が高まっていることを示すデータといえます。

※2025年までは年間、2026年は上半期の値(2025年通年との比較では約1.4倍)
不正アクセスによる個人情報の漏えいは、日本だけでなく世界規模で急増しています。日本経済新聞によると、2026年9月以降、世界で延べ3億人規模の個人情報の流出が判明したとのことです。
こうした急増の背景には、AIの悪用があるとの指摘もあります。従来の延長でシステムの堅牢化を進めるだけでは防御が難しく、どの企業もセキュリティ対策の見直しを迫られています。
海外IPアドレスからのアクセス遮断、サービスの一時停止、ネットワークの脆弱性を検証するペネトレーション(侵入)テストの強化など、企業や自治体の対応が報じられています。ただ、特に中小企業ではセキュリティの強化や教育が人的にもコスト的にも重い負担となります。自社が万全の対策をしていても、委託先から個人情報が漏えいするケースが多いのも事実です。
生活者の不安は高まり、サービスの利用を控える人も
一方、生活者・消費者の立場からは、個人情報の流出に今まで以上に敏感にならざるを得ない状況です。
多要素認証(MFA)やパスキーなどでなりすましを防げたとしても、企業が保有する顧客データに侵入されてしまえば、ユーザー個人には防ぎようがありません。個人レベルでできる対策は、個人情報の提供を伴うサービスの利用をできる限り控える、ということになってしまいます。
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が2026年1月に実施した「デジタル社会における消費者意識調査2026」(18〜79歳、1,449人)によると、Webサービスやアプリの利用時に個人情報の提供に抵抗がある人は70.0%、抵抗を感じた経験がある人は82.0%にのぼります。さらに、35.0%は抵抗を感じて利用をとりやめた経験があると回答しています。

年代別にみると、若い層ほど抵抗を感じた経験が少ない傾向がみられます。「抵抗を感じたことはない」は18~29歳で24.9%、30代で23.8%なのに対し、60代では13.9%、70代では11.3%にとどまっています。一方、抵抗を感じてサービスの利用をとりやめた経験がある人は、60代で47.5%、70代で42.9%と、高齢層で高くなっています。このように、個人情報の提供に対する抵抗感や、それによって実際に利用を控える行動には、年代による違いがみられます。
個人情報の保護に対し、過度に楽観的でも悲観的でも、社会生活上のリスクや不便につながります。ただ、ユーザーの意識が変わるには時間がかかるため、サービス提供者側が個人情報を適切に収集・保護して信頼を高めていく責任は大きいといえます。
国勢調査にも表れる、回答を得ることの難しさ
個人情報の提供に対する不安は、統計調査への協力を得るうえでも、無視できない問題です。
国の基幹統計で全数調査が原則の国勢調査ですが、本人から回答を得られる割合は低下しています。総務省資料によると、2005年は調査員による直接回収が95.6%で、聞き取り等による補完は5%未満でした。しかし、2020年の国勢調査では、インターネット回答:37.9%、郵送回答:41.9%、調査員による直接回収:3.9%の合計が83.7%と、本人回答の割合は2005年から10ポイント以上低下し、残りは周辺住民への聞き取りや住民基本台帳データの転載によって補完せざるをえなくなっています。さらに、特に都市部では近隣世帯のことを知らなかったり、あるいは外国人世帯の増加など、聞き取り自体が困難なケースも増えてきています。なお、2025年の国勢調査(速報値)では、インターネット回答と郵送回答を合わせた割合が80.7%となり、2020年の79.8%を上回りました。ただし、調査員による直接回収などを含めた本人回答の割合は、現時点では確定していません。
国勢調査の回収状況は、調査方法や社会環境の変化によって左右されるため、プライバシーへの不安だけで説明することはできません。それでも、回答者が安心して協力できる環境を整えることは、統計調査に限らず、あらゆるアンケートに共通する課題といえます。

一般的なアンケートでも、性別や年代といった属性に関する質問は、それだけで個人が特定されるわけではありません。しかし、回答者によっては、こうした質問にも抵抗を感じることがあります。
アンケート調査に求められる、回答者の不安への配慮
個人情報の漏えいが相次ぐなか、アンケート調査でも、これまで以上に回答者の不安に配慮することが求められます。 大切なのは、個人情報を適切に管理することだけではありません。回答者が安心して協力できるよう、調査の目的や情報の取り扱いをわかりやすく伝え、必要以上の情報を求めない姿勢も重要です。 具体的には、次のような配慮が考えられます。
- 質問項目を必要最小限に絞る:性別・年代・職業などの属性情報も、分析に必要なものだけを尋ねる。
- 回答の任意性を尊重する:答えたくない質問には回答しなくてもよいようにし、必要に応じて「回答したくない」という選択肢を設ける。
- 情報の利用目的を明確にする:何のために調査を行い、集めた情報をどのように利用・管理し、結果をどのような形で報告するのかを、回答者にわかりやすく説明する。
- 質問の表現や選択肢に配慮する:回答者の立場や多様性を尊重し、不快感や心理的負担を与えない設計を心がける。
また、調査を外部に委託する場合には、委託先での情報管理についても適切に確認する必要があります。
アンケート調査は、回答者の協力によって成り立っています。回答者が不安を感じたり、答えにくい質問を避けたりすることは、回答率だけでなく、得られるデータの質にも影響しかねません。回答者のプライバシーを尊重することは、単なるコンプライアンス対応ではなく、信頼できる調査結果を得るための基本条件でもあるのです。
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