新規と既存は、異なるタイプの顧客群
前回のコラムでは、顧客満足度調査にはトランザクショナル調査(取引直後)とリレーショナル調査(関係性の評価)の2種類があることを紹介しました。
この2つの違いを理解すると、「誰を対象に調査すべきか」という今回のテーマがより明確になります。
つまり、調査手法の違いと対象者の切り分けは地続きの関係にあり、両者を区別してとらえることが、満足度調査の精度を高める第一歩になります。
BtoB企業が実施する顧客満足度調査の多くは、商品・サービス全体への評価を扱うリレーショナル調査です。
しかし、新規顧客は商品・サービスのごく一部しか体験していないため、本来はリレーショナル調査の対象としては適しません。
その一方で、新規顧客は導入直後の“初期体験”を測るトランザクショナル調査に適した層でもあります。
前回紹介した「トランザクショナル/リレーショナル」という2種類の調査タイプを理解することが、今回のテーマである「適切な対象者選び」につながっていきます。
新規顧客は“体験量が少ない”という前提を忘れてはいけない
新規顧客は利用期間が短いため、体験している商品・サービスの幅が限られています。
担当者との初回のやり取りや導入直後の手続き、最初の数回の利用など、限られた接点をもとに評価が形成されるため、どうしても印象が偏りやすくなります。
そのため、導入初期の対応や使い始めの操作性といった“一時的な要素”が評価に影響しやすく、本質的な品質とは別の次元で評価が揺れ動きやすくなります。
一方、既存顧客は日常的な運用を通じて、商品・サービスの本質的な部分──品質、使い勝手、サポート、コスト、信頼性──などを多面的に判断できます。
両者をひとまとめにして満足度の平均を取ってしまうと、評価の基準が揃わないまま数値が並び、分析精度が大きく下がってしまいます。
ここで実際の調査データを用いて確認してみましょう。
以下はある消費者向けサービスの顧客調査データを分析したものです。

サービスに「満足している」顧客の割合を表す満足度トップ2ボックスは、利用期間が「1年未満」の顧客では65%でしたが、利用期間が「1年以上」を平均すると61%でした。
一般に新規顧客の満足度は購入・導入直後がピークで、その後、時間の経過とともに低下すると言われています。
そのため、たとえば「利用期間3か月以上を満足度調査の対象にする」「それ未満は新規利用者調査として扱う」といった線引きを行うだけで、データは格段に扱いやすくなります。
新規顧客だからこそ聞ける“意思決定情報”がある
新規顧客は購入や導入の意思決定からの時間が短く、どのようなきっかけで検討を始め、どの情報に触れ、どの会社と比較し、どのような理由で最終的な判断をしたのか──こうした重要な情報を鮮明に記憶しています。

既存顧客に同じ質問をしても、「よく覚えていない」という回答が多くなるため、マーケティングに活かせるデータとしては使いづらいことが少なくありません。
新規顧客を独立した枠でとらえることには、意思決定プロセスの理解という大きなメリットがあるのです。
特にBtoBでは複数の部門が意思決定に関与するため、新規顧客から得られる情報には、営業活動やマーケティング改善に直結する示唆が多く含まれています。
事前期待とのギャップを早期に補正し、活用支援につなげる
新規顧客を別枠で把握すべき最も大きな理由が、「事前の期待とのギャップを早期に発見できる」ことです。期待していた成果が得られていないにもかかわらず、使い方のコツがつかめず効果が見えない状態が続くと、不満が蓄積し、早期離脱の引き金になります。
特に高機能で使いこなしによって効果が変わる商品・サービスでは、導入初期のサポートが非常に重要です。ギャップを早期に見つけ、正しい使い方を支援し、期待していた成果を実感してもらう。このオンボーディングの質が、その後の満足度やリピートに直結します。
ギャップを放置した場合の“離脱と口コミ”のリスク
導入初期につまずいた新規顧客は、不満を抱えたまま離脱してしまうことがあります。
さらに厄介なのは、その顧客ほどネガティブな口コミを広めやすい点です。「期待していたほどの効果が得られなかった」「使いづらかった」という印象が固定される前に、問題を抱えている顧客を見つけて、必要なサポートを行うことが極めて重要です。
新規顧客を既存顧客と混ぜてしまうと、この初期段階の異変を見逃してしまい、結果として離脱率が高止まりするケースも珍しくありません。
まとめ──新規顧客と既存顧客は混ぜずに、“別の調査”として扱うのが鉄則
新規顧客は体験量が少なく、期待値が高く、意思決定の記憶が鮮明な特別な層です。既存顧客と同じ満足度調査に混在させると、評価の基準が異なるためスコアの解釈が難しくなり、本当に改善すべきポイントを見誤る可能性があります。
購入直後アンケート、オンボーディング支援、満足度調査、継続意向分析──これらを一連の流れとして設計することで、初期離脱の予兆をつかみ、顧客の成功体験を蓄積し、リピートにつながる好循環をつくることができます。
新規と既存を分けてとらえることは、単なる調査設計上の工夫ではなく、顧客の生涯価値を最大化するための“戦略”なのです。
前回のコラムで扱った“調査の種類を見極める視点”と、今回の“対象者選定の視点”は、どちらも満足度調査を設計する際の土台となる要素です。調査設計の精度は、この2つを組み合わせることで大きく高まります。
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顧客満足度調査についての理解をさらに深めたい方には、以下のページもおすすめです。



