はじめに:満足していれば、顧客は離れない?
「顧客満足度が高ければ、リピートされるはず」
これは顧客ロイヤルティやリピート率を考えるうえで、広く受け入れられてきた前提です。
実際のところはどうなのか?当社で実施したある消費者向けサービスの満足度調査データを使って、「総合満足度」と「継続利用意向」の関係をみてみました。
その結果、総合満足度と継続利用意向の相関係数は0.62となり、「非常に強い」とまではいえないものの、両者の間には相関があり、満足度が高いほど継続意向も高いという傾向が確認されました。

一部に見られる“ズレた層”に注目する
一方で、全体をプロットした散布図を見ると、赤と青の点線で囲まれた2つの領域が目に留まります。
🔵 青の領域:満足しているのに「離れる」と答えた層
🔴 赤の領域:満足していないのに「続ける」と答えた層
これらは、満足度と継続意向の向きが逆の層で、その割合は全体の1割程度の”例外“層です。
ということは、残りの9割は満足度と継続意向の向きが一致しているということで、満足度調査の有効性を改めて裏づける結果でもあります。
では、その1割はなぜズレているのか?
~なぜ「満足=継続」にならない人がいるのか?
この満足度と継続意向の“ズレ”を引き起こす背景には、以下のような異なる論理・心理が働いているものと考えられます。
🔵 満足しているのに離れる(青の層)
- 他にもっと良さそうな選択肢がある(価格・機能・利便性など)
- 満足はしているが「価格が上がった」「条件が悪化した」
- 概ね満足だが、どうしても許容できない不満点がある(例:狩野モデルでいう“当たり前品質”の欠如 → 基本条件を満たしていない)
- 満足したことで役割を終えた(例:目標達成や一時的ニーズの完了)
「満足しているのに離れる」という行動の裏には、顧客が満足を感じながらも、“期待していた軸”と違うポイントで評価されていた可能性があります。
また、「自分にとっての意味」が薄いと、満足していても“もっと自分に合う選択肢”へ乗り換えることがあります。
ここで注目されるのが、スペックやコストでは測れない“意味のある体験”―これが「意味的価値(Symbolic Value)」とも呼ばれる概念です。製品やサービスそのものではなく、それを通じて得られる感情・共感・自己実現など、「意味」の側面に価値を見出す傾向は、現代の消費者行動において無視できません。
それは、たとえば「この会社の姿勢が好き」「この商品を使うと少し気分が上がる」など、数値化できないけれど確かに感じる価値です。以前から「経験価値」や「コト消費」といった言葉で注目されてきたように、“どんな体験を得たか”が継続の決め手になることは少なくありません。
🔴 満足していないのに続ける(赤の層)
- 乗り換えるのが面倒(設定、学習、手続きなど)
- 長期特典や割引などのインセンティブ
- 他に選択肢がない(独占、業界慣習)
これらは、満足度スコアだけでは表に現れにくい「慣れ・なじみ・しがらみ要因」や「再評価ポイント」であり、調査設計上の重要な補完視点となります。
満足度スコアを“活かす”ための設計とは?
~1割のズレを可視化する「+αの質問」
満足度調査が9割を的確にとらえているのなら、調査の価値は高いと言えます。
しかし、ビジネスリスクや改善余地は、その“残りの1割”にこそ潜んでいるかもしれません。
そこで必要となるのが、「ズレた理由」を明らかにする設計視点です。
たとえば、
- 継続・離脱の理由(選択式+自由記述)
- 競合の検討状況
- 継続の“引き止め要因”や“面倒さ”の有無
- 利用歴の長さ、切り替えコストの認識
こうした項目を追加することで、満足⇄不満足のスコアでは見えないロイヤルティの質を可視化できます。
継続を生み出す「第3の価値軸」に注目
満足(Quality)や価格(Cost)だけで競合優位性を維持するのが難しくなっている今、継続を生み出す「第3の価値軸」として数値では測りにくい“意味的価値”や“関係性の質”がより重要になっています。
たとえば、以下のような要素です。
- 信頼できる対応やサポート体制
- ブランドに対する共感や理念への共鳴
- ブランドに抱く愛着や郷愁
- 「自分のことをわかってくれている」という関係性の実感
これらは、単なる表面的な満足を超えて、「選び続けたい」という気持ちを生む源泉となるものです。
評価軸 | 内容例 | 説明 |
---|---|---|
Quality(品質) | スペック・機能・使いやすさ | 一般的な満足の評価軸 |
Cost(コスト) | 価格、割引、条件 | 費用に対する認識 |
Meaning(意味) | 共感、姿勢、雰囲気、自己実現 | ブランドや体験が与える情緒的価値 |
満足度調査の“拡張”が新たな示唆を生む
満足度調査は、いまでも継続意向を読み解くうえで信頼できる出発点です。
一方で、調査をより実践的に活用するには、以下のような問いに向き合う必要があります。
- なぜ離れたのか?
- なぜ続けているのか?
- 継続を後押ししている「見えない要因」は何か?
このような“満足と継続のギャップ”に着目することで、調査スコアの“その先”に目を向ける視点が見えてきます。
継続の鍵は、「満足度スコアのその先」にある。そう気づいたとき、次に問われるのは、「では、うちではどうすればいいのか?」という実践的な視点です。
調査の設計や分析の方向性に悩んだときは、当社の無料アドバイスサービスをご利用ください。
無料アドバイスサービス受付中
理論を実務に落とし込む際に、こんなお悩みはありませんか?
「自社に合った調査設計の仕方がわからない」
「データをどう解釈し、次のアクションにつなげればいいのか悩んでいる」
「社内に相談できる相手がいない」
当社のリサーチャーが専門家の視点からアドバイスを行います。
- オンライン(Zoom)で30〜60分
- データ提出不要
- 経験豊富なリサーチャーが対応
初めての方も安心してご利用ください。担当者レベルのお悩みから経営層向けのご相談まで、幅広く対応しています。
【次はこちらもおすすめ】