理不尽なカスハラには毅然とした対応を

先日、JR東日本および西日本が、「暴行、脅迫、暴言、不当な要求といったカスタマーハラスメント(カスハラ)には対応せず、悪質と判断される場合には警察・弁護士等に相談のうえ対処する」との方針を発表しました。

商品・サービスに対する不満や要望といったクレームは顧客満足度(CS)改善に役立てることができますが、度を越したカスハラへの対応は時間と労力のムダです。
理不尽なカスハラへの対応を現場まかせにせず、企業として毅然とした方針を示すことは、大切な従業員を守るだけでなく、企業イメージを高め、顧客のほとんどを占める良識あるお客様のCS向上にもつながります。

カスハラ実態

厚生労働省が2023年12月~2024年1月に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間で顧客等から著しい迷惑行為を受けたと従業員から相談があった企業・団体の割合は、全体で27.9%でした。
「製造業」では8.8%であったのに対して、「医療、福祉」では53.9%、「宿泊業、飲食サービス業」は46.4%など、業種の差が大きいのですが、相談されなかったケースも相当数あるものと思われます。

過去3年間でカスハラに関して重が要因から相談があった企業の割合


カスハラに関する厚生労働省のガイドラインでは、実際に企業が受けたカスハラに類する行為として以下のような事例が挙げられています。

時間的拘束

  • 一時間を超える長時間の拘束、居座り
  • 長時間の電話
  • 時間の拘束、業務に支障を及ぼす行為

リピート型

  • 頻繁に来店し、その度にクレームを行う
  • 度重なる電話
  • 複数部署にまたがる複数回のクレーム

暴言

  • 大声、暴言で執拗にオペレーターを責める
  • 店内で大きな声をあげて秩序を乱す
  • 大声での恫喝、罵声、暴言の繰り返し

対応者の揚げ足取り

  • 電話対応での揚げ足取り
  • 自らの要求を繰り返し、通らない場合は言葉尻を捉える
  • 同じ質問を繰り返し、対応のミスが出たところを責める
  • 一方的にこちらの落ち度に対してのクレーム
  • 当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な攻め立て

脅迫

  • 脅迫的な言動、反社会的な言動
  • 物を壊す、殺すといった発言による脅し
  • SNSやマスコミへの暴露をほのめかした脅し

正当な理由のない過度な要求

  • 言いがかりによる金銭要求
  • 私物(スマートフォン、PC等)の故障についての金銭要求
  • 遅延したことによる運賃の値下げ要求
  • 難癖をつけたキャンセル料の未払い、代金の返還要求
  • 備品を過度に要求する(歯ブラシ10本要望する等)
  • 入手困難な商品の過剰要求
  • 制度上対応できないことへの要求
  • 運行ルートへのクレーム、それに伴う遅延への苦情
  • 契約内容を超えた過剰な要求

セクハラ

  • 特定の従業員へのつきまとい
  • 従業員へのわいせつ行為や盗撮

権威型

  • 優位な立場にいることを利用した暴言、特別扱いの要求

SNSへの投稿

  • インターネット上の投稿(従業員の氏名公開)
  • 会社・社員の信用を棄損させる行為

その他

  • 事務所(敷地内)への不法侵入
  • 正当な理由のない業務スペースへの立ち入り
  • コロナ禍におけるマスク着用、消毒、窓開けに関する強い要望

明らかな犯罪行為に対しては刑事・民事の法的手段に訴えるべきですが、中には程度問題でクレームとの線引きが難しいケースもあるでしょう。しかし、ケースバイケースで現場対応に任せてしまうと、どうしても事なかれ主義で対応する従業員の負担が過重になっていまいます。従業員の心身が疲弊してしまうのはもちろんですが、他のお客様への対応も疎かになり大変な迷惑となってしまいます。

やはり企業としてカスハラに対する断固たる方針を示し、全従業員が統一した対応をとれるようにガイドラインやマニュアルを作成したり、即座に適切な対応を判断できる報告・相談体制を整えたりすることが求められます。これまで幸いにしてカスハラの被害に遭ったことがないとしても、今後に備えて、あるいは消費者として無自覚に自身が加害者となってしまわないためにも、カスハラ対策に取り組むことが必要です。

アンガーマネジメント

アンガーマネジメントでは、怒りのピークが続くのは約6秒で、その間だけ感情を抑えられれば徐々に怒りは薄らいでくるとされています。しかし、怒りの感情自体は2時間程度持続するそうですし、いったん怒りを爆発させてしまえばなかなか収まりません。

怒りの感情に捉われている相手に反論や言い訳はNGですが、いくら誠実に対応しても、暴言や罵倒の言葉がワンパターンの繰り返しになる等、冷静な会話が成り立たない状況になってしまっては何を言ってもすぐに解決することはできません。とはいえ、その場で相手の怒りが鎮まるまで頭を下げてひたすら待つのではなく、「場所を変える」「人を変える」「時間を変える」といったクレーム対応の基本を行い、その上で理不尽なカスハラと判断できたら、それ以上の対応はきっぱり断るべきです。

カスハラ対策が顧客満足度にも影響

カスハラの一番の被害者は対応にあたる従業員ですが、それを目撃した他の従業員、あるいは他のお客様にも少なからぬ負の感情をもたらします。カスハラ行為者に対する非難は当然ですが、それを容認・黙認していると思われてしまったら企業イメージも悪化し、顧客満足度(CS)や従業員満足度(ES)に影響するのです。

カスハラ対策が従業員の満足度だけでなくお客様の満足度にも影響するとはどういうことでしょうか。

顧客満足度(CS)を形成する人的な要因としては、直接対応にあたる従業員(店員や営業員、電話オペレーターなど)が最も重要なのは間違いありませんが、いくら担当者の対応が素晴らしくても、以下のような場面に遭遇すれば不快な気持ちになることでしょう。

【担当以外の従業員】

  • 他の従業員の(他の客への)接客態度が悪かった <従業員→客>
  • 従業員間のパワハラ行為(大声での叱責など) <従業員→従業員>

など

【自分以外の顧客】

  • 他の客のカスハラ行為 <客→従業員>
  • (お店や劇場などで)他の客がうるさかった <客→客>

など

すなわち、直接の担当者だけでなく、担当以外の従業員や自分以外の顧客も、時には(多くの場合、悪い方向で)CSに影響する要因となりうるのです。

お客様アンケートもカスハラ対策の1つ

しかしながら、担当以外の従業員や自分以外の顧客に関する意見・評価というのはお客様の側から自主的に届くことは滅多にありません。よほど周りの客が騒がしければ、注意してくれるよう従業員にお願いすることがあるかもしれません。

なかなか自発的に話してもらえないことについては、こちらから質問してみましょう。お客様アンケートを実施して率直に意見を述べてもらうことにより顧客理解の解像度を上げることができます。

また、お客様アンケートをふだんから実施して顧客とコミュニケーションをとることは有効なカスハラ対策の一つになります。自分たちの意見・要望を反映した改善を実施してくれるとの信頼があれば、何かトラブルがあっても、その場で怒りを爆発させて終わるのではなくアンケートを通して意見を伝えたいと思ってもらえるかもしれません。アンケートに回答していくうちに感情を鎮める効果がありますし、意見・要望として自分の気持ちをまとめる中で怒りを客観視することができます。

はじめから確信犯的にカスハラ行為をしようとする人はほとんどいないはずです。どのような対応が相手の気に障るかは人それぞれで、トラブルの芽を完全に摘むことは難しいのですが、怒りの矛先を目の前の従業員にぶつけてカスハラに発展したり、誇張したネガティブな内容をSNSに投稿したりするのではなく、お客様アンケートという企業の責任者に直接気持ちを伝えられる方法があることは、顧客・企業どちらにとっても有益ではないでしょうか。

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