はじめに

近年、調査手法は大きく変化しています。かつては郵送や紙を中心とした方法が主流でしたが、デジタル変革の進展により、Webやデジタルツールが前面に出てきました。この変化の詳細は、「デジタル変革の中のアンケート:Web化のメリットと実践ガイド」で3つのタイプに分けて解説しています。

調査手法を選ぶ際、単なる「郵送かWebか」の二者択一では十分ではありません。「郵送調査~Web回答併用で顧客対象調査の効果を上げる」では、郵送調査のメリットとWeb回答の利便性を組み合わせた方法が詳しく解説されています。

なお、対象者や状況によっては、Webの手軽さが逆に不適切と受け取られることもあります。特に、高齢者やBtoBの法人顧客には伝統的な郵送調査が適しています。これらの層に対しては、今後も、デジタル化が進む中で、郵送調査を基本とし、Web回答をオプションとして追加する形が最も効果的であると考えられます。

このページでは、こうした背景を踏まえ、郵送調査の成功の秘訣や効果的な実施方法についての具体的なノウハウを詳しく解説します。

郵送調査のメリットとデメリット

メリット

  1. 広範な対象者へのアプローチ: 幅広い地域や年齢層にアクセス可能。
  2. コスト効果: 一般的に、対面式よりも費用が安い。
  3. 率直な意見の取得: 自分のペースで回答できるため、率直な意見が得られる。
  4. BtoB調査向き: 企業が組織として回答を検討し、記録として残すことができる。

さらに、紙に手書きで回答することのメリットとして、以下の各点を挙げることができます。

  1. 温度感: 紙のアンケートでは、筆圧や文字の大きさ、丁寧さなど、手書きの特徴から個性や心の状態が表れる。
  2. より深い理解: 上記のような情報から、回答者の感情や思考過程をより深く理解することができる。
  3. 脳の活性化: 手書きにより脳の前頭前野が活性化され、分析者も回答者の思考過程をたどることで脳が活性化される。

デメリット

  1. 質問構成の難しさ: シンプルかつわかりやすい質問構成が必要。
  2. 調査設計のクオリティ要求: 高品質な調査設計が求められる。
  3. レイアウト上の制約: 紙のアンケートでは設問の作り方にレイアウト上の制約がある。
  4. 印刷の手間とコスト: 印刷に時間がかかり、さらに印刷コストが発生する。
  5. データ入力の手間: 紙のアンケートの回答をデータ化する際に、手間がかかる。

加えて、Webアンケートとの比較において、以下の点を郵送調査のデメリットとして指摘することができます。

  1. 回答の手軽さ: Webの方が手軽に回答でき、アンケート協力率を高めることができる。
  2. 回答収集のスピード: 一般的に、Webの方がスピーディーに回答を集めることができる。

郵送調査がWebアンケートに勝るケース

Webアンケートも自記式調査の一つですが、特定のケースでは郵送調査が有利です。たとえば、インターネット環境を持たない高齢者を対象とする場合や、オンラインショッピングの利用率、情報源としてのSNSの参照割合など、インターネット利用の有無が結果に影響するテーマに関する調査の場合には、郵送調査が適しています。

郵送調査の課題とその解決策

郵送調査には以下の3つの主な課題がありますが、それぞれの課題に対する解決策をご紹介します。

  1. 回収率を上げる
  2. 実査コストを抑える
  3. 答えやすい調査票にする

1. 回収率を上げるための工夫

【ポイント】お礼兼督促状を送る

調査に協力してくれない人の多くは、拒否というよりも単に無関心にすぎないと思われます。調査開始後1週間程度経って回収状況が思わしくない場合には、督促を行って調査への関心を再度促すのが効果的です。

当社の経験に照らすと、平均的には10%程度の回収率アップが期待できます。その際、既に調査票を返送してくれた人とそれ以外の人を選り分けて督促状(ハガキ)を送るのではなく、調査協力のお礼を兼ねた文面にして全員に送付する方式をおすすめします。

お礼兼督促状の例
お礼兼督促状の例。回答のお礼と未回答の場合の協力依頼を併記する。

【ポイント】Webアンケートを併用する

郵送調査とWebアンケートの併用は、回収率を上げるための有効な手段です。

弊社の実績では、郵送調査とWebアンケートを併用した場合、全体の回収数の1~3割がWeb回答となっています。詳しくは、「郵送調査~Web回答併用で顧客対象調査の効果を上げる」をご覧ください。

2. 実査コストを抑えるための工夫

郵送調査のコストは、送付数や使用する資材によって大きく変動します。以下に、コストを効果的に抑えるための具体的な方法をご紹介します。

【ポイント】適切な送付方法の選択

郵送調査の送付方法には、メール便や通常郵便などの選択肢があります。調査票は個人宛の信書として通常郵便で送ることを推奨します。

【ポイント】送付用封筒の工夫

郵送調査の基本的な送付物は、

  • あいさつ状(調査協力依頼状)
  • 調査票
  • 返信用封筒

です。これらを入れて送る送付用の封筒について、角2封筒(定形外)を使えば、A4サイズの調査票を折らずに封入できますし、他の郵便物よりも多少目立たせることができるかもしれません。

ただ、郵便料金を考えると、できれば定形の長3封筒を用いたいところです。長3封筒でも、調査主体と内容物を明記し、封筒の色も目立つようにすれば、他の郵便物に紛れてしまうのを避けることができます。現在の郵便料金や適切な封筒のサイズについては、以下の一覧表を参照してください。

郵便料金
長3封筒は定型郵便、角2封筒は定型外郵便物(規格内)の料金となる。

【ポイント】調査票の最適化

調査票について、冊子のような厚みがあるなどのよほどのことがなければ、あいさつ状や返信用封筒とあわせた総重量が50gを超えることはないでしょう。

調査票の紙質、ページ数やサイズを最適化することで、総重量を25g以内に収めて送付コストを削減することができます。また、調査票とあいさつ状を一体化することもあります。実験の結果、あいさつ状と調査票は別々でも一体化しても、回収率に違いはなかったそうです。

【ポイント】返信用封筒の工夫

返信用封筒も長3(送付の際は折った状態)サイズで、封をしやすいようにテープのり付きにするのがよいでしょう。

郵送調査では発送した分がすべて回答されて戻ってくるわけではありませんので、返送分の料金のみ支払えばよい「料金受取人払」を利用するのが一般的です。ちなみに、料金後納の場合の手数料は1通あたり20円で、これが返送分の切手代に追加されます。なお、特に大切なお客さま宛などで発送数が少ない場合やBtoBの場合には、返信用封筒に切手を貼っておくと、一律に機械的ではない感じがしてよいかもしれません。

料金受取人払いの返信用封筒の例
返信用封筒のデザイン例。テープのり付きで封をしやすく、料金受取人払いを利用。

答えやすい調査票のデザイン

郵送調査の成功は、対象者が調査票を開封し、最後まで回答することにかかっています。そのため、調査票のデザインや内容は非常に重要です。以下に、回答意欲を高めるためのポイントをご紹介します。

【ポイント】適切なページ数と文字の大きさ

ページ数の最適化

郵送調査の調査票は、対象者が自由な時間に回答することを前提としています。しかし、ページ数が多すぎると、回答の意欲が減少する可能性があります。理想的には、両面刷り4ページ(A3サイズの2つ折り)から8ページ程度がベストです。

調査票はできれば両面4ページ(A3サイズの2つ折りで1枚) 、多くても8ページに収める
中綴じの場合、ページ数は4の倍数になる。できれば両面4ページ、多くても8ページに収める。
文字の大きさ

文字の大きさは、読みやすさを確保するために重要です。特に高齢者を対象とする場合は、大きめの文字が望ましいです。基本的には、文字サイズは10ポイント以上を推奨します。ページ数を節約するために文字を小さくするよりも、読みやすさを優先する方が効果的です。

ユニバーサルデザイン(UD)フォントの利用

ユニバーサルデザイン(UD)フォントとは、多くの人々にとって見やすく、読みやすくなるように工夫されたデザインのフォントです。調査票の読みやすさをさらに向上させるために、ユニバーサルデザイン(UD)フォントの利用を検討するのもよいでしょう。

ユニバーサルデザイン(UD)フォントを利用すると、調査票の読みやすさがさらに向上する。
上は「MSゴシック」、下は「BIZ UDゴシック」を使用したもの。
質問の流れとレイアウト

調査票の質問の流れやレイアウトも、回答意欲に影響します。ページ数を増やすことで、質問の流れが自然になる場合があります。また、質問をびっしりと詰め込むのではなく、適切な行間やマージンを確保することで、読みやすさを向上させることができます。

答えやすい質問作成のポイント

質問の分量もそれほど多くなく、文字やレイアウトも見やすければ、対象者もとりあえず回答してみようかという気持ちになってくれることでしょう。せっかく協力してもらうのですから、正しく、漏れ抜けなく、最後まで回答してもらえるような質問内容、質問フローにしたいところです。正しく回答してもらうためには、各質問文や選択肢を、対象者によって意味のとらえ方に違いがないよう簡潔にまとめることが大切です。

以下に、そのための具体的なポイントを5つ紹介します。

  1. 質問文や選択肢は、簡潔かつ明確に。
  2. 用語についての注釈は、レイアウトを乱さないよう工夫する。
  3. 複数回答質問の選択肢は、ページをまたがないように配置。
  4. 複数回答のバイアスを減らすため、項目数を絞る。
  5. 複雑な回答分岐は避け、全員がすべての質問に答えられる構成を目指す。

プログラムでエラーの制御ができるWebアンケートとは異なり、郵送調査では、

  • 単一回答の質問なのに複数の項目に〇がついている
  • 複数回答の質問でも、他の項目と同時に「どれもない」に〇がついている

等の回答エラーは避けられません。しかし、対象者がどこで回答につまずきやすいかが見えやすいため、郵送調査の経験を重ねることで、対象者の立場に立った調査票づくりの腕を磨くことができます。

郵送調査の真価: 対象者とのコミュニケーションと手書き回答の深み

郵送調査はアナログの制約が多い一方で、対象者の立場に立った調査票づくりに真剣に取り組む必要があります。これはデメリットではなく、市場調査の本来の目的、すなわち“対象者とのコミュニケーション”を深める絶好の機会ととらえることができます。

さらに、紙のアンケートには手書き回答の特徴が強く表れ、回答者の感情や思考過程をより深く理解することができるというメリットもあります。手書きの特徴から対象者の感情を読み取ることは、Web回答では不可能であり、これは郵送調査ならではの価値と言えるでしょう。

詳細なガイドライン

答えやすい調査票の作成に関する詳しいガイドラインについては、アンケート作成の参考書などを参考にしてください。

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郵送調査の魅力: 対象者との深いコミュニケーション

郵送調査の時間がかかるという特性は、逆に対象者との接点を増やすチャンスととらえることができます。お礼や督促状の送付を通じて、対象者とのコミュニケーションを深めることが可能です。海外では、協力依頼状を事前に送ってから調査票の送付、その後何度か督促を行うなど、対象者に5回は接触することを提唱する専門家もいますが、これは回収率を上げるためだけでなく、対象者とのコミュニケーション機会ととらえているようにも感じられます。

郵送調査の活用例

RFM分析を行う企業は、直近の購入がないお客さまへのアプローチが難しい場合があります。しかし、郵送調査を活用することで、これらのお客さまからの回答も期待できます。

郵送調査では、RFM分析で直近の購入がないお客さまへのアプローチも可能
郵送調査では、RFM分析で直近の購入がないお客さまへのアプローチも可能。

郵送調査は古典的な手法ととらえられることもありますが、その背景には長年の研究や経験が基盤としてあります。対象者の立場に立ったアプローチや、答えやすい調査票の工夫は、回収率やデータの精度を向上させるだけでなく、調査を実施する企業の評価向上にも寄与します。

郵送調査の活用ポイント

【郵送調査を上手に活用するためのポイント(まとめ)】

課題対策
回収率を上げるお礼兼督促状を送る
Webアンケートを併用する
実査コストを調査票をスリム化すれば、送信用封筒の大きさは長3でも大丈夫抑える
返信用も基本は封かんテープ付き長3封筒で、料金受取人払い
答えやすい調査票にするページ数は8ページまで、文字の大きさは10ポイント以上が望ましい
簡潔で答えやすい質問方法を工夫する

郵送調査の実施をご検討の際は、どうぞお気軽にご相談ください。専門スタッフが、ニーズに合わせた最適な調査プランをご提案いたします。

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