調査結果をうのみにしてはいけない理由とは?

顧客満足度や顧客ロイヤルティを高めるために、多くの企業が顧客満足度調査を実施しています。
調査結果として「満足度が50%」「推奨意向は30%」「NPSが15ポイント」といった数値が得られると、それがすべてを示しているように感じられるかもしれません。しかし、調査結果をうのみにしてしまうことには大きなリスクがあります。

たとえば、「満足度が50%」とは、すべての顧客の半分が満足しているという意味ではなく、「調査対象者の50%が満足していると回答した」という事実を示しているにすぎません。

実は、調査設計のわずかな違いで、結果が大きく変わることがあります。
設問文の表現、選択肢の数や内容、設問を配置する順序など、調査の微妙な要素が回答者の心理に影響を与え、得られる数値を左右します。このため、結果を「数値が高い=良い」「低い=悪い」と単純に判断するのではなく、その背景にある要因を正しく理解することが必要です。

特に「NPS(ネットプロモータースコア)」や「総合満足度」などの指標を活用する際には、日本市場特有の問題に留意する必要があります。
たとえば、日本人は回答の際に極端な評価を避ける傾向があるため、NPSスコアが他国に比べて低く出ることが一般的です。
このような特性を考慮せずに結果を解釈すると、誤った施策を打ち出しかねません。

なぜ日本市場ではNPSが低く出るのか?

顧客ロイヤルティのレベルを測定するために、NPSを導入している企業も多いことでしょう。
NPSは「0~10点」の11段階評価を用い、回答者を次の3つのグループに分類します。

推奨者(9~10点):強く推奨する意向を持つ顧客。
中立者(7~8点):どちらとも言えない立場の顧客。
批判者(0~6点):推奨する意向が低い顧客。

そして、NPSスコアは「推奨者の割合から批判者の割合を引く」という簡単な算出方法で求められます。単一の数値で顧客ロイヤルティの度合いを示せるわかりやすさが特徴です。しかし、その解釈においては社会・文化的な影響を理解しておく必要があります。

日本人は、極端な選択肢(特にポジティブな評価)を選びがちな「極端反応傾向(ERS: Extreme Response Style)」が低く、中間の評価を好む「中間反応傾向(MRS: Middle Response Style)」が高いことが指摘されています。

低ERSによる影響
日本人は「10」点や「0」点といった極端な評価を避ける傾向があるため、推奨者(9~10点)の割合が低くなりがちです。

高MRSによる影響
また、日本人は中間的な選択肢を選びがちで、10点満点の「5」とその前後に回答が集まり、批判者(0~6点)の割合が高くなる傾向があります。

低ERS-高MRSでNPSはマイナスに
推奨者が少なく、批判者が多いため、日本でのNPSは極めて低く、多くの場合マイナスの数値になります。

日本市場の回答傾向をベンチマークデータで裏付ける

NTTコム社などが公開しているベンチマーク調査のデータをみると、生命保険では業界平均が-50近くなど、多くの業界で日本のNPSスコアがマイナスであることがわかります。

日本とアメリカのNPSベンチマークデータの比較

一方、アメリカ市場に目を向けると、2016年よりNPS調査を実施しているRetently社の公表データでは、BtoC業界では16~80で、BtoB業界では37~76だそうで、日本市場に比べると、はるかに高いNPSスコアが紹介されています。

スコアの背後にある理由を掘り下げ、改善につなげる

NPSの特性やベンチマーク情報を紹介しましたが、総合満足度や推奨意向など、他の顧客満足度・ロイヤルティ指標についても同じで、日本市場特有の回答傾向の影響を受けます。
重要なのは、「何パーセント」「何ポイント」といったスコアそのものではなく、なぜ、その結果になったのかであり、スコアの背後にある顧客の声や行動を理解し、改善に活かすことが成功の鍵です。

NPSの生みの親であるフレデリック・ライクヘルド氏は『「顧客愛」というパーパス <NPS3.0>』で次のように述べています。

ストランクとホワイトが残した重要な名言の一つは「単純さが力を解き放つ」ということだ。この哲学は、わずか二つの質問で構成された、もともとのネット・プロモーター・システム調査に反映されている。それは①「あなたが(当社の製品またはサービスを)推奨する可能性はどれくらいありますか(0~10)」と②「あなたがそのスコアをつけた理由は何ですか(自由形式での説明)」だ。

「フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ (2022) 『「顧客愛」というパーパス <NPS3.0>』(鈴木立哉訳) 株式会社プレジデント社」

「なぜそのスコアをつけたのか」を自由回答で収集し、スコアの高低に至った理由を明確化することがポイントになるわけです。

NPSであれば、推奨者、中立者、批判者のグループごとに自由回答を分析することで、批判者の不満要因や中立者が推奨者になりきれない理由を把握できます。しかし、前提となる分類が適切なものでない場合には、顧客に対してよりよい製品やサービスを届けて「推奨者」を増やしていくことためのヒントを読み取ることが難しくなってしまいます。

NPSのスコアがマイナスになることが問題なのではありません。顧客を推奨者、中立者、批判者に正しく分類できるかどうかという点に、日本市場でNPSを導入する難しさがあると言えるでしょう。

推奨者・中立者・批判者の本質を問い直す

同じ対象者に「○○○を友人・知人にすすめる可能性はどれくらいありますか?」と質問して、5段階の「推奨意向」と11段階の「NPS」の両方で評価をしてもらったことがあります。
下の表はその結果をクロスして見たものです。

NPSの11段階評価と推奨意向の5段階評価のクロス表

表中の各列の朱色が最も濃い(=最も割合が高い)セルをつないでいくと、NPSと推奨意向の対応は次のようになっています。

NPS推奨意向
0~1すすめない
2~4たぶんすすめない
5~7たぶんすすめる
8~9すすめる
10必ずすすめる

NPSの定義では「中立者」に区分される「8」点の評価者でもはっきりとした推奨意向を示しています。また、批判者に区分される「5~6」点の評価者にも弱い推奨意向があります。

「低ERS-高MRS」という日本人の回答傾向に鑑みれば、日本市場に合ったNPSの定義は以下のようなものになるでしょう。

批判者0~4点を選んだ人
中立者5~7点を選んだ人
推奨者8~10点を選んだ人

顧客満足度調査から成果を導くために今できること

NPSや顧客満足度は、調査が目的とする売り上げの拡大や事業の成長といった「成果」と、そこにつながる具体的なアクションを結び付ける目印のようなものです。NPSや顧客満足度が「上がった」「下がった」だけでは、どうやって成果を出していけばよいのかの方法論を見つけることはできません。

顧客満足度調査は、調査結果をどのように活用するかによって、その価値が大きく変わります。単なるスコアの上下に一喜一憂するのではなく、日本市場に特有の回答傾向や文化的特性を考慮して、調査結果の背景を深掘りし、具体的なアクションにつなげることが重要です。

成果につながる顧客満足度調査の実施をご検討でしたら、当社までお気軽にご連絡ください。専門のスタッフが、貴社のビジネスニーズに合わせた最適な調査方法を一緒に検討させていただきます。

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