調査結果の見方

調査をすると、「満足度が50%」「購入意向は30%」など、結果が数値ででてきます。
しかしこれは、「満足している人が50%いる」「消費者の30%が購入してくれる」ことを表しているわけではありません。

上の例では、あくまでも

  • 「満足している」と回答した人が50%であった。
  • 調査対象となった消費者のうち、30%が購入意向を示した。

ということに過ぎません。

また、同じことを聞くのでも、設問文の表現、選択肢の数や内容、質問の位置や順番によって、でてくる結果が違ってきます。

調査をする以上は、できるだけ正しい、意味のある結果を得たいものです。
今回は、推奨意向とNPSの調査結果を例に、同じ「すすめる可能性」を聞いた結果が実際にどのように違っているのかをご紹介したうえで、「できるだけ正しい、意味のある結果」を得るための方法について説明します。

推奨意向とNPSの調査結果を比較

同じ対象者に「Q. ○○○を友人・知人にすすめる可能性はどれくらいありますか?」との質問に対して、「推奨意向」方式では「すすめない/たぶんすすめない/たぶんすすめる/すすめる/必ずすすめる」の5段階で、「NPS」方式では「点数が高い=すすめる可能性が高い」とする「0~10」の11段階で評価してもらいました。
「推奨意向」方式では「どちらともいえない」を含まないアンバランスな評価スケールにしています。
また、質問の順番については、先に「推奨意向」方式で評価をしてもらい、他の質問を挟んだあとで「NPS」方式で評価をしてもらいました。

それぞれの評価結果は次のとおりです。

推奨意向とNPSの調査結果を比較

推奨意向については、あいまいな推奨意向者(=たぶんすすめる)を含めないTop2(=必ずすすめる/すすめる)が3割弱です。
NPSのほうは、9~10点をつけた「推奨者」割合から0~6点をつけた「批判者」割合を差し引いたNPSスコアがマイナスになっています。

評価が高めになる買い物直後の来店客に対するお買い物満足度調査のようなトランザクショナル調査とは異なり、契約者・登録者などに対して顧客満足度や継続利用意向などを聞くリレーショナル調査では、マイナスのNPSスコアも珍しくはないでしょう。

推奨意向レベル別NPS

続いて、2種類の評価をクロスしてみましょう。
まず、推奨意向のレベル別にNPSをみてみると次のようになります。

推奨意向レベル別NPS

Bottom2の「すすめない」人のほぼすべてが「批判者」です。
一方、Top2の「すすめる」人では、中立者が半数以上にのぼり、推奨者は3割程度です。さらに批判者も1割程度います。

NPSレベル別推奨意向

次いで、NPSのレベル別に推奨意向をみてみると次のとおりです。

NPSレベル別推奨意向

「推奨者」の9割近くがTop2の評価をしています。「中立者」でも半数近くがTop2評価です。
また、「批判者」でも半数近くが「(たぶん)すすめる」としています。

回答傾向(Response style)とは

なぜこのような矛盾した結果になるのか?その原因の一つは日本人の特性にあります。
具体的には社会・文化的な影響による回答傾向(Response style)の違いによるもので、日本人は、極端な選択肢(特にポジティブな評価)を選びがちな「極端反応傾向(ERS: Extreme Response Style)」が低く、中間の段階評価を好む「中間反応傾向(MRS: Middle Response Style)」が高いことが指摘されています。

ERSによって5段階評価の「5」やNPS質問の「10」は特に選ばれにくく、MRSによって5段階評価の「3」やNPS質問の「5」が選ばれやすいわけです。
このことは、実際に推奨意向の評価別にNPSの評価をみるとよくわかります。

推奨意向の評価別にNPSの評価をみる

5段階評価で「5 必ずすすめる」を選んだ人でもNPSで「10」を選ぶ人は5割程度ですし、「1 すすめない」を選んだ人でもNPSで「0」を選ぶ人は1/3程度です。
一方で、「1 すすめない」を選んだ人の1/4が、「2 たぶんすすめない」を選んだ人の半数が、NPSでは中間評価である「5」を選んでいます。

日本人の回答傾向(Response style)に留意した設問設計

アンケートの質問を作る時には、「低ERS+高MRS」という日本人の回答傾向の特徴に留意する必要があります。
極端な例ですが、満足度を「非常に満足/どちらともいえない/非常に不満」の3段階で評価してもらうと、ほぼすべてが「どちらともいえない」だったということになりかねません。

意見や態度の程度を5段階や7段階などで評価してもらう段階評価法(リッカート尺度)では、以下のような工夫をすることにより、ある程度はERSやMRSの影響を抑えることができます。

  • 両極の評価ラベルに「極めて」「非常に」などの強い表現を使用しないこと。
  • 「どちらともいえない」のような中立的な評価を設けないこと。ポジティブとネガティブの数が揃わないアンバランスなかたちにするのも効果的。
  • 3段階だと真ん中がより意識されやすくなるので要注意。・・・「松竹梅」で「竹」を選びやすくなる「松竹梅の法則」(または「ゴルディロックスの原理」)もはたらく。

日本人の回答傾向に留意したNPSの使い方

段階評価法において段階の数が多くなると両極の極端度合いが強調されそうな懸念があり(※)、基本的に5段階や7段階のほうが望ましいと考えますが、NPSの場合は0~10の11段階になっていますので、特にリレーションナル型の調査ではどうしても「0」や「10」が選ばれにくくなります。※外国の研究ですが、4~7段階評価の結果を比べて、段階が多いほどERSが低くなったという報告があります。

さらに日本では「5」が選ばれやすいため「批判者」の割合が多くなり、その結果NPSスコアがマイナスになってしまいがちです。

マイナスのNPSスコア以上に問題なのが、「低ERS+高MRS」という日本人の回答傾向の特徴に鑑みた場合に、そもそも「推奨者」「中立者」「批判者」の分類は適切なものなのか?ということです。

NPSの生みの親であるフレデリック・ライクヘルド氏は『「顧客愛」というパーパス <NPS3.0>』で次のように述べています。

ストランクとホワイトが残した重要な名言の一つは「単純さが力を解き放つ」ということだ。この哲学は、わずか二つの質問で構成された、もともとのネット・プロモーター・システム調査に反映されている。それは①「あなたが(当社の製品またはサービスを)推奨する可能性はどれくらいありますか(0~10)」と②「あなたがそのスコアをつけた理由は何ですか(自由形式での説明)」だ。

「フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ (2022) 『「顧客愛」というパーパス <NPS3.0>』(鈴木立哉訳) 株式会社プレジデント社」

NPSでは、単にスコアをみて一喜一憂するのではなく、②の「なぜそのスコアをつけたのか」を詳しく調べて、もっとリピーターを増やすために何をすべきかを考えることがとても重要です。

評価理由の分析に際しては、「推奨者」「中立者」「批判者」での違いを意識して読み込んでいくのが効果的です。
しかし、前提となる分類が適切なものでない場合には、顧客に対してよりよい製品やサービスを届けて「推奨者」を増やしていくことためのヒントを読み取ることが難しくなってしまいます。

ここで、NPSの評価別に推奨意向の評価をみてみましょう。

NPSの評価別に推奨意向の評価

各列の朱色が最も濃いセルをつないでいくと、NPSと推奨意向の対応は次のようになっています。

NPS推奨意向
0~1すすめない
2~4たぶんすすめない
5~7たぶんすすめる
8~9すすめる
10必ずすすめる

上の対応状況に鑑みると、「推奨者」「中立者」「批判者」については以下のような分類基準とするのがよさそうです。

批判者0~4点を選んだ人
中立者5~7点を選んだ人
推奨者8~10点を選んだ人

上記の基準で分類しなおした「補正版NPS」レベル別に推奨意向をみると次のようになります。

「補正版NPS」レベル別に推奨意向をみる

この分かれ方であれば、「推奨者」「中立者」「批判者」で自由回答の傾向の違いがはっきりとみえてくることでしょう。

こんな感じで、私たちリサーチャーは、「できるだけ正しい、意味のある結果」を得るために、日々調査データと格闘しています。
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