顧客満足度改善の戦略を考える:弱みをつぶす vs 強みを伸ばす

企業が顧客満足度を高めるためには、「弱みをつぶす」と「強みを伸ばす」という2つの方向性があります。多くの企業は「弱みをつぶす」に注力しがちですが、その結果として、「無難だが特徴のない」製品・サービスになり、競争優位を築くのが難しくなることがあります。そのため、「強みを伸ばす」ことが、他社との差別化や顧客ロイヤルティを高める上で重要な戦略となります。

しかし、すべての弱みを無視できるわけではありません。特に、一部の弱みは放置していると顧客離脱の引き金となり、どれだけ強みを伸ばしても顧客ロイヤルティが向上しないというジレンマを招きます。たとえるなら、穴の開いたバケツで水を汲み続けるようなものです。

このような弱みによる顧客離脱を防ぐためには、「弱みの中でも見過ごしてはならない問題」を特定し、適切に改善することが必要です。その際、特に重要なカギを握るのが、顧客が抱える不満足の解消です。不満足が放置され、積み重なると、顧客は最終的に離脱や悪い口コミといった行動に至る「臨界質量」に達します。

本稿では顧客不満足に注目し、放置された不満がどのように臨界点を超えて顧客離脱につながるのかを解説します。また、放置リスクを回避するための「当たり前品質」への取り組みと、不満足の具体的な原因を把握し、解決策を導くための調査手法「クリティカルインシデント法」を活用した実践的アプローチをご紹介します。

不満足の臨界質量と当たり前品質

不満足の臨界質量

顧客満足度を考える上で、「不満足の臨界質量」という概念が役立ちます。物理学における臨界質量とは、核分裂反応が連鎖的に進行し、制御不能な状態になる最小限の質量を指します。これを顧客満足度に置き換えると、「顧客が不満を積み重ねた結果、我慢の限界を超えるポイント」としてとらえることができます。

当たり前品質

顧客の不満足が積み重なることで「臨界質量」を超えると、いよいよ顧客離脱が起こります。このメカニズムを考える上で特に重要なのが「当たり前品質」の問題です。

当たり前品質とは、顧客が当然期待する品質であり、それが欠けると顧客満足度を急速に低下させますが、満たされていても満足感を直接的に高めるわけではありません。

顧客が求める商品・サービス品質と満足度の関係を示した「狩野モデル」。 魅力的品質:不充足でも仕方がない(不満には思わない)が、充足されれば満足 一元的品質:不充足だと不満、充足されると満足 当たり前品質:不充足だと不満、充足されて当たり前

当たり前品質は目立たないため、企業側で改善の優先順位が低くなりがちです。しかし、当たり前品質の問題が積み重なると、顧客の不満が臨界点に達するリスクが高まります。

例:問い合わせ対応に対する迅速な対応が「当たり前」として期待されるケース

1回の対応遅れ:許容範囲(多くの場合、大きな問題にならない)。
2回目:不満を感じ始める(小さな警戒が発生)。
3回目:信頼を失い、「この会社では安心して利用できない」と判断する。

ウィルキーの不満反応5段階モデル

ウィルキーの不満反応5段階モデルでは、不満を感じた場合の消費者の反応を、以下の5段階に分類しています。

ウィルキーの不満反応5段階モデル レベル1 不満を感じても、誰にも何も言わない「何もせず我慢」する段階 レベル2 二度と買わないと思う「不買い」の段階 レベル3 友人・知人に不満を持ったことを伝える「悪い口コミ」をする段階 レベル4 店にクレームを告げて問題解決を探る「苦情」を伝える段階 レベル5 最も強い不満反応で、公的機関などの「外部機関に訴える」段階


不満足が臨界質量に達するまでのプロセスを、ウィルキーの不満反応5段階モデルに沿って理解すると、不満を放置するリスクがより明確に見えてきます。

レベル1:「何もせず我慢」
顧客が不満を感じても行動を起こさない段階。企業にとっては不満の兆候が見えにくい。
リスク: この段階の不満を察知できないと、顧客のストレスが蓄積し、次の段階へ進む可能性が高まります。

レベル2:「不買い」
顧客が「二度と買わない」と決断する段階。行動として現れるが、企業が気づかない場合が多い。
リスク: 離脱した顧客が潜在的な売上を奪い、新規獲得コストが増加します。

レベル3~5:「口コミ・苦情・公的機関への訴え」
不満がさらにエスカレートし、顧客が不満を他者や企業、外部機関に訴える段階。
リスク: 悪い口コミが拡散し、新規顧客獲得に障害を生み、クレームや訴訟対応コストも発生します。

放置リスクを回避するための「当たり前品質」への取り組みと実践的アプローチ

クリティカルインシデント法を活用した当たり前品質の改善

顧客満足度を高めるには、目に見える強みを伸ばすことが重要ですが、「当たり前品質」の欠如による不満足を放置すると、顧客離脱を引き起こすリスクが高まります。当社では、この「放置リスク」を回避し、顧客の信頼を維持するためのアプローチとして、クリティカルインシデント法(CIT)を活用しています。

CITは顧客が実際に経験した不満足の具体的なエピソードを収集し、その原因を分析して改善策を導く調査手法です。一般的な満足度調査では得られにくい、具体的で生々しい経験談を引き出すことができるため、特に「当たり前品質」の課題を浮き彫りにするのに適しています。

不満足経験を的確に把握するための調査設計ポイント

調査では、まず不満足経験の有無をチェックします。そして、不満足な経験をしたことがあると回答した顧客には、経験した不満足の内容を自由回答形式で詳細に記述してもらいます。

その際、顧客の記憶に残る具体的な不満を引き出すために、以下のような聞き方をします。

[設問例]

  • 当社の製品・サービスを利用して不満を感じた際のことについて教えてください。その時、どのような状況でしたか?
  • その不満を解消するために、どのような対応を期待されましたか?」


これにより、顧客の不満が「なぜ起きたのか」「どう対応すべきだったのか」という明確な情報を得ることができます。

収集した自由回答データは、その内容をもとに頻出テーマ別に分類し、たとえば『対応の遅れ』『基本機能の欠如』など、最も多くの顧客が不満を感じた問題を特定します。その後、改善の優先順位を設定し、具体的な施策立案へと進みます。

ケーススタディ

ECサイトを例として、不満足の改善アプローチを見ていきましょう。

直面する問題

ある中堅ECサイトでは顧客のリピート購入が伸び悩んでいます。会社では、配送の遅れや商品説明の不十分さが原因で、顧客の不満が増加しているのではないかと考えています。

顧客アンケートでも、 「配送状況の更新が一切なく、商品が本当に届くのか不安になった」「予定日を過ぎても商品が届かず、連絡先も分からなかった」などの声が寄せられています。
また、配送に関するクレーム件数が毎月20%増加しており、SNSではネガティブな口コミが全体の30%を占めています。

これらの不満は、顧客離脱(ウィルキーのモデルで言うレベル2)や悪い口コミ(レベル3)へとつながり、新規顧客の獲得にも影響を及ぼしかねません。

問題解決アプローチ

アンケートの実施:クリティカルインシデント法の活用

顧客離脱リスクを最小化することを目指して、まずはクリティカルインシデント法で不満足経験を可視化します。
具体的には、顧客に対して「配送や商品説明に関するアンケート」を実施。アンケートでは、経験した不満足について自由回答形式で具体的なエピソードを記述してもらいます。

アンケートの分析:仮説検証

回答データの分析から2つの仮説が裏付けられます。

配送状況の把握不足(不満の60%を占める)
例:配送が遅れた際に通知がなく、何日も待たされた。

商品ページの情報不足(不満の30%を占める)
例:商品説明ページに記載されていた寸法が不明瞭で、購入後に商品が部屋に合わなかった。

アクションプランの策定と展開

分析によって特定された問題についての改善施策を検討し、策定します。
そして、改善施策の実行後に効果検証を行い、施策の微調整を行います。

[改善施策とその効果検証の例]

配送ステータスをリアルタイムで確認できる通知システムの導入。
→不満足経験率の35%減少。特に配送トラブルに関する不満足経験率が顕著に減少。

商品ページに詳細な説明動画や高解像度の画像を追加し、商品のイメージを正確に伝える。
→SNSでのネガティブ口コミの20%減少。配送や商品情報に関する否定的な口コミが減り、ポジティブな口コミが増加。

不満足の臨界質量を超えさせないために

不満足の臨界質量を超えることは、顧客離脱やブランドイメージの損失という形で企業に大きな影響を及ぼします。特に、当たり前品質の欠如による小さな不満が蓄積しやすいため、この領域への注意が欠かせません。
上のケーススタディのように、クリティカルインシデント法を活用して具体的な課題を特定し、適切な改善施策を講じることで、不満足の臨界質量に達する前にリスクを回避することが可能です。

当社のサービスは、顧客企業に寄り添いながら、細やかなサポートを行う『伴走型』であるところに特徴があります。経験豊富なリサーチャーが貴社の担当者様と密接に連携し、調査結果を単に報告するだけでなく、貴社のビジネス目標に向けた具体的な改善策を共に考え、きめ細やかなサポートを提供します。

顧客の信頼を守るためには、目に見えにくい小さな不満にこそ目を向け、地道に対応していくことが重要です。
顧客満足度の改善に力を入れたいとお考えの企業様や従来の取り組みから期待する効果を得られていないとお悩みの企業様は、お気軽に当社の無料相談をご利用ください。

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