5年に一度、日本中のすべての人と世帯を対象に実施される「国勢調査」。
マーケティングや社会調査に関わる方にとっては、人口データの「原点」ともいえる存在です。

今回は、国勢調査の基本的な仕組みや、住民基本台帳・人口推計との違い、そして調査設計における活用のポイントを整理します。

国勢調査とは――日本で最も信頼できる人口統計

国勢調査は、5年ごとに総務省統計局が実施する全国規模の全数調査です。
外国人を含む日本国内のすべての人と世帯を対象に、人口、世帯構成、就業状況などを把握します。
国内の人口構造や地域ごとの動向を最も正確に示すデータであり、国の政策・地方行政・企業調査の基礎となる統計です。

近年では、単身世帯や外国人世帯の増加、個人情報保護意識の高まり、マンションのオートロック化などの影響で、調査員が世帯にアクセスしづらくなり、回答率はやや低下傾向にあります。
それでもなお、国勢調査は「最も信頼できる人口データ」であることに変わりありません。

調査設計の“母集団”を支えるデータ

調査を設計する際、調査対象の割付(サンプリング設計)には国勢調査の人口分布が欠かせません。
地域、性別、年代の構成比を国勢調査データに合わせて設定することで、調査結果の代表性が確保され、集計・分析の説得力が高まります。

つまり、国勢調査は調査の「母集団」を定義するための基礎統計です。
信頼される調査にするための“裏付け”として、最初に参照すべきデータといえます。

国勢調査の弱点と補完データ

ただし、国勢調査は5年に一度しか行われないため、直近の人口動向を把握するには不向きです。
その補完として活用されるのが、国勢調査を基礎に出生数・死亡数・出入国者数などを加減して算出する「人口推計」です。

月次の人口推計で直近の確定値である2025年4月の総人口は1億2,339万6,802人です。
2020年の国勢調査時点(1億2,614万6,099人)から約275万人減少しており、人口減少のペースが一段と加速していることがわかります。

2000年以降の日本の総人口推移。国勢調査と人口推計による変化を比較

もっとも、人口推計はあくまで推計値であり、次回の国勢調査結果が出ると過去に遡って修正されます。
2020年の例では、推計人口より実際の国勢調査人口のほうが約40万人多かったことが確認されました。

住民基本台帳人口との違い

人口統計の代表的なデータとして、住民基本台帳に基づく人口もあります。
これは毎年1月1日時点の市区町村別人口を把握できる便利な統計ですが、実際には「住民登録しているが住んでいない」「住んでいるが登録していない」などの乖離が生じます。

2020年10月の国勢調査人口と2021年1月1日現在の住民基本台帳人口を比較すると、特に東京都では実際に住んでいる人が20万人以上多いという差が見られました。

国勢調査人口と住民基本台帳人口の差が大きい都道府県。東京都で乖離が顕著

このように、居住実態を正確に反映する点では、国勢調査のほうが優れているといえます。

「ふだん住んでいる場所」で把握する実態

国勢調査では、住民票の有無にかかわらず「ふだん住んでいる場所」で調査を行います。
これは、3か月以上(見込みを含む)生活の本拠地を意味し、学生寮、老人ホーム、病院、ホテル、刑務所なども対象に含まれます。

この方法によって、実際の居住実態に基づく全数把握が可能となります。
特に首都圏のように人口の流動性が高い地域では、国勢調査による「実際の居住者人口」を参照することが、調査設計や地域分析において極めて重要です。

まとめ――調査を支える“母集団統計”としての価値

国勢調査は、単なる人口調査ではなく、日本のあらゆる統計・調査の出発点です。
正確な母集団を設定し、調査結果に信頼性を持たせるためには、国勢調査のデータが欠かせません。
調査企画や報告書に「説得力」を与える第一歩は、国勢調査を理解し、適切に活用することにあります。

次回は、国勢調査とも関わりの深いテーマとして、外国人居住者の動向を取り上げます。
在留外国人統計や人口推計をもとに、日本社会の多様化をデータで読み解いていきます。

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