新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が続いています。

コロナウイルスは野生動物だけでなく家畜も含めてあらゆる動物に感染し、さまざまな症状を引き起こします。
ただ、多くの場合は軽度の呼吸器症状や下痢を引き起こすだけですし、それぞれの動物に固有のコロナウイルスは種の壁を越えて他の動物に感染することはほとんどないと言われています。

また、コロナウイルスは、直径約100ナノメートル(1ナノメートル=100万分の1ミリ)の球形で表面に突起が見られ、その形が王冠に似ていることからギリシャ語で王冠を意味するコロナという名前が付けられたのですが、ウイルスとしては大きめで大気中に長時間とどまったり遠くまで移動したりすることはできません。

顕微鏡で見たコロナウイルス

ヒトに感染するコロナウイルスも1960年代から見つかっていましたが、一般的な風邪の症状を引き起こす程度(現在も風邪の10~15%はコロナウイルスが原因だそうです)でした。

しかし、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)、2012年のMERS(中東呼吸器症候群)と、動物から感染したコロナウイルスが重篤な症状をもたらすケースが出てきて、今回の新型肺炎は3例目となります。

中国・武漢市の海鮮市場で売られていた野生動物がウイルスの発生源で、自然界では接触することのない動物同士が狭い場所に集められたことにより、異種間の感染によって病原体が突然変異を起こした可能性がある、とされています。

日本でも感染者が確認され、政府は新型肺炎を強制入院などが可能になる「指定感染症」としました。
中国では武漢市の交通封鎖や海外への団体旅行禁止などの措置をとっていますが、昨年12月以降に患者が出始めてから武漢からだけでも1万人以上が来日しているようです。

ウイルスの感染リスクを「感染力」×「致死率」とすると、まず「感染力」について、イギリスの研究チームの発表だと新型コロナウイルスは1人の患者から平均2.6人に感染しており、これはSARSと同水準とのことです。

ウイルスの遺伝子の特徴によって同じ人から感染したウイルスの拡散を追跡していくわけですが、これを「R値」 (Reproduction number:再生産数)といい、インフルエンザはコロナウイルスと同程度の2~3、エイズは2~5、風疹は5~7、麻疹(はしか)は何と12~18だそうです。

次に「致死率」ですが、1月29日の中国政府の発表によると、新型コロナウイルスの中国国内の感染者は5,974人で既にSARSを上回り、死亡者も132人になったそうです。

この数字からは致死率は2.2%で、MERSの約34%やSARSの約10%と比べて低い水準です。
ちなみに、毎年のように流行するインフルエンザの致死率は0.1%程度ですが、強毒性の新型インフルエンザ(鳥インフルエンザなど)だと5~15%に跳ね上がります。

ウイルスに感染しても発熱などの症状が出ないまま治癒する不顕性の人もいるでしょうし、現時点では新型コロナウイルスの感染リスクをそれほど深刻に捉える必要はないかと思います。

ここで、少し視点を変えて、感染症だけでなく他の疾患や事故など死因別の死亡者数をみてみましょう。

◎日本人の死因別死亡者数・死亡割合(2018)

日本人の死因別死亡者数・死亡割合
出典:厚生労働省「人口動態統計月報年計(平成30年)」

ここで、念のため用語の確認をしておきます。

「死亡率」=「ある要因による死亡者数」÷「総人口」
「致死率」=「ある病気による死亡者数」÷「ある病気の患者数」
「死亡割合」=「ある要因による死亡者数」÷「全死亡者数」

例えば、「日本人のがんの死亡率は3割弱」といった使い方は誤りになります。

さて、日本の出生数は90万人を割り込んで少子化が進んでいるのは周知のことでしょうが、一方で死亡者数は年々戦後最多を更新しています(昨年は推計で138万人)。

死因は、がん、心疾患(心筋梗塞や心不全など)、老衰(他に分類できない自然死?)、脳血管疾患(クモ膜下出血や脳梗塞など)、肺炎、のトップ5で全体の3分の2を占めます。

なお、直接的な死因としてインフルエンザによる死亡が3,325人となっています。
ただ、糖尿病や(心臓、肺、腎臓などの)持病を抱えている人がインフルエンザにかかったことによって症状が悪化して死に至るケースもあります。

そこで、世界保健機関(WHO)では、インフルエンザが流行したことによって総死亡がどの程度増加したかを示す推定値「超過死亡」を出すことを推奨しています。
「超過死亡」を基にした直接的・間接的なインフルエンザの死亡者数は、その年の流行度合いにもよりますが、だいたい1万人程度とされています。

おなじみのインフルエンザですが、その死亡リスクは軽視できませんね。

新型コロナウイルスはワクチンや治療薬の開発もまだ時間がかかるでしょうし、今後のさらなる流行や変異の可能性も気になります。

ただ、未知の部分が多いウイルスを過度に恐れて真偽の定かでない情報に振り回されるよりも、ある程度予防方法のわかっている通常のインフルエンザや生活習慣病などの疾病リスクを減らす地道な努力をする方が命を守ることにつながるのではないでしょうか。

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