先日読んだ「ストレッチ 少ないリソースで思わぬ成果を出す方法」という本に、実に興味深い実験の話が紹介されていました。
1960年代にアメリカの大学生を対象にした実験で、ある病気について説明し、その病気から身を守る唯一の方法が予防接種であるとして、大学内の診療所で予防接種が無料で受けられることを知らせて、実際の接種率を調査したものです。
調査の結果、病気の恐怖を強調して伝えられたグループでは、ワクチンの接種意向が非常に高かったにもかかわらず、実際の接種率は平均的なものだったのに対して、診療所への地図を渡されたグループでは、地図を渡されなかったグループに比べ、8倍以上も接種率が高かったのだそうです。
この本の著者は、地図を渡すことが「つもり」を実際の行動に転換させる一押しになったとしています。

実際に調査をしていると、上記の例のように「つもり」と行動がかけ離れたケースがよくあります。
例えば、新サービスの利用意向は高かったのに、実際の利用申し込み者数が伸びないというようなケースです。
これまでに利用してきたサービスを「解約すると違約金がかかる」とか、「変える手続きが面倒・億劫」などの「慣れ・馴染み・しがらみ」要因が、「つもり」を行動に移すうえでの障害となっているわけです。

面倒や億劫が行動を移すうえでの障害になっていることの代表的なものに選挙における投票行動があります。

以下は、衆議院議員選挙の投票率の推移をグラフに示したものです。
平成29年10月に行われた選挙の投票率は53.7%で、郵政民営化が争点となった平成17年、政権交代が争点となった平成21年のそれぞれの選挙における投票率に比べると、大幅に低い水準でした。

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出典:総務省公表データを加工して作成

平成29年選挙での棄権理由の主なものは「関心がなかった」「適当な候補者がいなかった」などで、「仕事があった」「重要な用事があった」などのやむを得ぬ事情は多くありません。

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出典:公益財団法人 明るい選挙推進協会実施「第48回衆議院議員総選挙全国意識調査」結果報告書掲載データを加工して作成

投票率を上げるために、大学や商業施設等への期日前投票所の設置、期日前投票所での投票時間帯の拡大、さらには知名度の高い芸能人などをキャラクターに起用したPRなど、各地で様々な取り組みが行われていますが、決め手となるような打ち手はまだ見つかっていないようです。
電子投票化とまではいかないにしても、冒頭で紹介した実験の結果を参考にして、投票日になると、スマートフォンに投票所の地図と道順を配信してくれるようなシステムを導入すれば、特に投票率が低いことが問題となっている若者の投票率アップにつながることが期待できそうです。

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