19世紀半ば、ドイツの社会統計学者エルンスト・エンゲルは、家計の消費支出に占める飲食費の割合(エンゲル係数)が高いほど生活水準が低い(生活水準が向上すると係数が下がる)とする論文を発表しました。
総務省の家計調査データによると、日本では終戦直後に6割を超えていたエンゲル係数は、戦後の復興・経済成長とともにほぼ一貫して低下し続け、2005年に22.9%(二人以上世帯)となりましたが、その後は上昇に転じています(2017年は25.7%)。
出典:家計調査(総務省統計局)
注.1999年以前は農林漁家世帯を除く結果、2000年以降は農林漁家世帯を含む結果
近年のエンゲル係数上昇の背景としては、人口・世帯構造の変化、食料品価格の上昇や消費増税、外食や中食の増加などライフスタイルの変化や食以外に対する消費性向の低下、などが挙げられており、もはやエンゲル係数は必ずしも国民生活の豊かさを反映する指標にはならないとする意見もあります。
では、直近の家計調査データで年収別のエンゲル係数がどうなっているか見てみましょう。全世帯を収入の低いほうから並べて5グループに分けた「五分位階級」(収入の低い方からI, II, III, IV, V)別にみると以下の通りです。
「I」のエンゲル係数が30%を超えているというのは日本全体ではおよそ50年前の数字ですが、収入分位が上がるにつれ係数が低下しているのを見ると、エンゲルの法則はまだ有効なように思います。
ちなみに、各階級の平均年間収入は
I:254万円、II:385万円、III:522万円、IV:705万円、V:1,178万円
となっています。
なお、エンゲル係数の分子となる食料費の内訳は以下の通りで、「外食」「調理食品」
の割合が高く、「菓子類」や「酒類」も含まれています。
出典:家計調査(二人以上世帯)(総務省統計局)
また、1ヶ月あたりの消費支出を収入分位「I」と「V」で比較してみると、総額では22万6千円の差がありますが、食費に限ると3万3千円ほどとなり、うち約半分は「外食」の違いであることがわかります。他には「調理食品」「肉類」「菓子類」等で差が大きいでしょうか。
すなわち、「外食」等の支出額の多さが年収の高い第V階級のエンゲル係数を押し上げ、「I」との差を縮めていると言えるわけですが、本来のエンゲル係数の意味づけからは「調理食品」はともかく「外食」「菓子類」等は食料費から除いて算出・比較した方が適切ではないでしょうかね。
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