アメリカ大統領選挙が11月8日に行われます。正確にはこの日に大統領本人が選出されるわけではなく、一般有権者の投票により各州の選挙人が選ばれる、ということですが、選挙人の投票先は本人の意思ではなく各州における得票数で決まってしまいます(Winner-Take-All)ので、事実上この日に次期大統領が決定することになります。
アメリカの大統領選挙は、各州に割り当てられた選挙人を1人でも多く獲得した候補者が当選する仕組みですので、特に接戦の場合、たとえ総得票数で相手候補を下回ったとしても、選挙人が多い州で勝ったりすれば大統領に当選する可能性があるわけです。最近では、2000年の選挙においてジョージ・W・ブッシュ元大統領が民主党のアル・ゴア候補より総得票数は少なかったものの勝利した例がありますね。
次期アメリカ大統領が誰になるかは国内外の政治・経済・社会に大きな影響を及ぼすため、大統領選挙は世界的に関心が高く事前予測も盛んに行われますが、総得票数だけでは判断できないとなると世論調査の支持率に基づく予測には限界がありそうです。
アイオワ大学では、1988年から電子市場IEM(Iowa Electronic Markets)を開設し「予測市場」の手法で大統領選挙の結果を予測しており、世論調査などよりも精度が高いとして注目されています。
予測市場とは、株式市場のような市場メカニズムを利用し、大勢の参加者の“集合知”によって将来の出来事を予測する仕組みのことです。
IEMのサイトをみると、大統領選挙の結果予測に関する市場価格の推移チャートが載っています。
Winner-Take-All Market
11月2日時点における民主党候補(青色)の価格は58セントでした。
IEMは学術目的で運営されているため投資額にも制限があり、投資単位は1ドルまでとなっています。予測が的中すれば1ドル入手できる(100%の確信があれば1ドル投資できる)わけですので、価格が58セントということは民主党候補の当選確率が58%と予測していることと同じになります。
なお、IEMでは大統領選挙の得票率についても予測しているのですが、こちらの方は、両党候補者の価格差がさらに拮抗しています。
選挙まで残り日数が1週間を切った直前において、IEMでは、不人気といわれる両党候補者の支持率の差がそれほど広がらなかったとしても結果的には民主党のヒラリー・クリントン氏が勝利する、と予測しているわけです。
Vote Share Market
予測市場はまだまだ試行錯誤の段階ですが、正確な予測を可能にする集合知を形成する情報の集約機能に関心が寄せられ、既にアメリカではハリウッド映画のヒット予測や民間企業の意思決定などにも予測市場が活用されています。
金銭的なインセンティブに関しても議論があり、株式投資あるいはブックメーカーや競馬などのギャンブルに近い要素が残るとなると投資や賭博に関する法制度の問題をクリアしなければなりませんが、最近では「Augur」など仮想通貨を用いた分散型の処理システムにより国の規制を越えようとする新しい試みも始まっています。
近年、AI(人工知能)の急速な進化は脅威を感じるほどですが、それでも重要な意思決定に際しては今後もやはり人間の集合知による判断の方が勝っている、と考えたいものです。
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