国民性とアンケートの回答傾向
国民性の違いは、アンケートの回答傾向にも表れるのでしょうか。
先行研究によると、日本人は、
中間回答傾向:MRS(mid-point response style)が強い
→評価尺度の真ん中の回答カテゴリーを選ぶ傾向がある。
極端回答傾向:ERS(extreme response style)が弱い
→評価尺度の両極カテゴリーを選ぶのを避ける傾向がある。
と指摘されています。
質問内容にかかわらず上記の傾向が必ず見られるのだとすれば、たとえば、5段階評価のアンケートをすると、中間回答傾向により「3」を選ぶ割合が高く、極端回答傾向によって「1」や「5」が選ばれにくいことが予想されます。
まずは国民性の違いについて「Hofstedeの6次元モデル」を参照した上で、日本人の特徴とされる回答スタイルをどう扱えばよいか、国土交通省が実施した国際アンケート結果を例に見ながら考えていきます。
Hofstedeの6次元モデル
Hofstedeの6次元モデルは、オランダの社会心理学者Hofstede博士を中心に考案された異文化理解のためのフレームワークです。
以下の6つの指標を用いて、各国の文化や価値観の違いを数値で比較できるようになっています。
- 権力格差:権力に従順で社会の不平等を受け入れる度合い
- 個人主義/集団主義:集団よりも個人の利益を優先する度合い
- 男性性/女性性:生活の質や思いやりなどよりも成果や競争を重視する度合い
- 不確実性の回避:未知の状況や不透明な未来を嫌う度合い
- 長期志向/短期志向:長期的に未来を見据える度合い
- 人生の楽しみ方:人生の楽しみや喜びを追求する度合い
Hofstede InsightsのWebサイトでは100以上の国・地域について6指標のスコアを調べることができます。
例として日米中3カ国のスコアを比較してみましょう。
日本は「男性性」「不確実性の回避」「長期思考」のスコアが高いのですが、米中との比較で特徴的なのは「不確実性の回避」傾向が強い点です。
世の中はそもそも不確実なものです。その不安を少しでも和らげるためには、周囲に同調して悪目立ちせず、ルールや慣習に逆らわず、準備をしっかり整えてスケジュール通り(時間に正確)に行動するのが無難、となります。
一方、不確実性の回避を優先する生き方は、窮屈でストレスフルなため幸福度が低く、また製品・サービスの品質にも妥協しないためCS(顧客満足度)が低い=なかなか高い評価をつけない傾向がある、とHofstede博士は述べています。
国民性は興味深い切り口ですが、
- 中間層が減って格差が広がったり、AIなど技術革新に伴う社会変化、あるいはLGBTや移民といった多様性がますます求められるようになっても、基本的な国民性は変わらないのか?
- 個々人のパーソナリティの方が国民性よりも影響が大きくなるのではないか?
- そもそも国民性というのは今後もずっと残り続けるものなのか?
といった点は検証していく必要があるように思います。
アンケート結果の国際比較
続いて国際アンケート結果の例から日本人の回答傾向を見てみましょう。
国土交通省が、日本、イギリス、フランス、ドイツ4カ国の18~65歳・男女を対象にした「市民向け国際アンケート調査」を2020年に実施しています。
その中で、
- 大企業で働きたいか?
- 中小企業で働きたいか?
- ベンチャー・スタートアップ企業で働きたいか?
- 独立・起業したいか?
について、それぞれ「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらでもない」「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の5段階で質問しています。
国によって就業構造や労働環境などが異なり、仕事観の違いがそのまま国民性の違いとまでは言えませんが、5段階評価の分布に注目すると、中小企業で、日本の「どちらでもない」の割合が5割を超えてます。
中小企業といってもさまざまで、優良企業や働き甲斐のある会社も多いわけですから一括りにして答えにくいように思います。これは大企業やベンチャー・スタートアップにも当てはまりますが、中間回答傾向というより質問の曖昧さの問題もありそうです。
次に、回答傾向の違いをわかりやすく比較するため、選択肢別の積み上げチャートを作成してみます。
日本は「そう思う」の回答割合が低めです。
一方で「そう思わない」の回答割合は欧州3カ国と同程度ですし、「どちらでもない」の中間回答がそれほど突出しているわけでもありません。
日本では評価尺度の両極カテゴリーが選ばれにくいとされていますが、ネガティブ側については割と回答されやすいのかもしれません。
また、選択肢のラベルについて、両極が「そう思う」⇔「そう思わない」となっており、アンケートでよく見かける「非常にそう思う」⇔「まったくそう思わない」といった、程度を表す形容詞がつかない点も選択されやすさにつながったものと考えられます。
ほとんどの人が関心ある「仕事」というテーマで意思表示しやすかったこともあってか、このアンケートでは日本が他国に比べて特異な回答傾向を示しているようには見えません。
中間回答傾向への対処法
そもそも、アンケートの回答者が「ふつう」「どちらともいえない」などの中間回答をするのは、
- きちんと考えた上での中間回答
- 質問項目が曖昧なため答えにくい
- その質問について知識や関心が乏しい
- よく質問を読まず、いいかげんに回答
といった場合が考えられます。
「1」のケースなら特に問題はありません。
さらに回答のバラつきを増すための対策としては「5段階ではなく4段階にするなど中間尺度をなくす」「中間尺度を真ん中からずらして非対称にする(5段階で「ふつう」を「3」ではなく「2」にする、等)」「両極カテゴリーも回答されやすいよう選択肢の表現を変える」等が考えられます。
「2」「3」は、たとえばWebアンケートで必須回答の場合、他に適当な選択肢がなければ「どちらともいえない」などの中間回答を選ぶしかないこともあるでしょう。こうしたケースでは「わからない等の選択肢を追加する」「きちんと答えられそうな人に回答条件を設定する」「無回答も可とする」等の対応策があります。何よりも、何を聞きたいのか質問意図・意味を明確にして、聞くべき人に率直に答えてもらうことが重要です。
「4」は、とりあえずアンケートを終えることだけが目的で、Satisfice(いいかげん回答)の問題と言われます。Satisficeについては、回答内容や回答所要時間、トラップ質問から検出する方法もありますし、不正回答が疑われる場合は回答を無効にする旨の事前通知もある程度は効果あるでしょう。しかし、途中までは真面目に回答していて一部のみいいかげんに回答、といった場合の判定は非常に困難です。
アンケートに協力してくれる以上、最初から最後までいいかげんに回答するような人はまれで、途中で興味ない質問が続いたり、アンケートが長すぎたりする場合などに、ついいいかげんに答えてしまう、といったケースがほとんどかと思います。従って、Satisficeを防ぐためにはいいかげんに回答されない質問内容にするのが最も効果的です。
日本人特有の回答傾向を考慮した調査設計で、成果を引き出す
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