日本のエンゲル係数(家計に占める食費の割合)は、2024年に30%に達しました。

エンゲル係数は家計の豊かさや生活余裕度を測る代表的な指標の一つです。
一般に、所得が高く、生活に余裕があるほどエンゲル係数は低くなります。

実際、アメリカやヨーロッパ諸国のエンゲル係数は20%前後にとどまっており、日本の水準は先進国の中でも突出しています。

なぜ、日本のエンゲル係数はこれほどまでに高くなっているのでしょうか。

なぜ日本のエンゲル係数は上昇しているのか?

日本の場合、長期的な背景としては、高齢化や共働き世帯の増加による中・外食の増加などがあります。加えて、消費税の引き上げや円安、物価高の影響も無視できません。

2014年には消費税の引き上げがあり、円安の影響で食料品価格が上がりはじめるなど、それ以降は急ピッチでエンゲル係数が上がっています。

二人以上世帯のエンゲル係数の推移(2000年~)、2014年の消費税引き上げ以降は急ピッチでエンゲル係数が上昇

食費の中で、何が家計を圧迫しているのか?

では、食費の中で特に何の支出が増えているのでしょうか。
二人以上世帯の家計調査データをみていきましょう。

「外食」と「調理食品」の支出額が大きい

食費の中で支出額が大きいのは「外食」と「調理食品」です。

「外食」はコロナ禍で大きく落ち込みましたが、2024年にはコロナ前より支出額が増えています。
「調理食品」とは、お弁当やお惣菜、冷凍食品などですが、こちらは長期的に右肩上がりに支出が伸びています。

「外食」と「調理食品」は、原材料・エネルギー費や人件費の高騰の影響を受けやすく、値上げ圧力も強いので家計へのインパクトが大きいといえます。

米などの「穀類」は、米価高止まりの影響などにより支出額が増えていますが、食費全体としての割合はそれほど大きくありません。お米の価格が高いと、むしろ米飯の「外食」や「調理食品」の値上げに伴う支出増につながりやすいと思われます。

長期的な動きとしては、「魚介類」の消費が徐々に減っていたり、「菓子類」の支出額が増えているトレンドの方が目を引きます。

「菓子類」は、コロナ禍で外食が減った分、家での間食やプチ贅沢としての消費が増えたといわれていますが、コロナ後も変わらずに習慣化しているようです。

令和の米騒動で「米」の支出が急増

とはいえ、直近では令和の米騒動がはじまった昨年の夏から「米」の支出が急増しています。

「穀類」の項目別年間支出額の推移(2000年~)

長期的には「米」の支出額が減る一方で「パン」や「麺類」の消費額が増えており、一時的に「米」の支出が増えても、「パン」や「麺類」の消費にはあまり影響しない傾向が続いてきました。

しかし、これ以上「米」支出の負担増が続くと、一時的には「パン」や「麺類」の消費を減らして対応するかもしれませんが、いずれコメ離れを加速してしまうことにつながる可能性がありますし、米飯を用いる「外食」や「調理食品」産業にも影響が及ぶ可能性があります。

直近の「穀類」項目別月間支出額の推移(2024年1月~)、直近では、令和の米騒動がはじまった昨年の夏から「米」の支出が急増。

何を削って、食費増に対応しているのか?

さて、エンゲル係数が高くなってきているということは、他に支出割合が減っている費目があるわけです。
データを見てみると、2000年に比べ大きく割合が減っているのは「その他の消費支出」です。

二人以上世帯の年間消費支出に占める上位4項目の割合の推移(2000年~)、「その他の消費支出」が減少傾向。

「こづかい」と「交際費」が大幅に減少

さらにデータで「その他の消費支出」の内訳を詳しく見てみましょう。

「その他の消費支出」の中でも、支出額が大きく減少しているのが「こづかい」と「交際費」です。
自由に使えるお金が、静かに、しかし、着実に削られてきていることが読み取れます。

「その他の消費支出」の項目別年間支出額の推移(2000年~)、「こづかい」と「交際費」の支出額が大幅に減少。

「こづかい」は、実際には、ランチ代や飲み代、趣味・ファッションなど個人的な支出に充てられているものの、何にいくら使ったかまでは家計で把握していない使途不明の支出額のことです。

従って、ここでの「こづかい」の減少は、必ずしも夫などの小遣いが減っていることを意味しないのですが、実質賃金が伸び悩む中で食費の負担が増えているわけですから、趣味・娯楽などに自由に使える個人的なおカネが減っていることは想像に難くありません。

「交際費」はコロナ禍までは低下傾向が続いていたものの、それ以降は下げ止まっているようです。
不要不急の外出を控えれば交際範囲も限られますが、そこで本当に交際が欠かせない人間関係の再構築ができたのかもしれません。

エンゲル係数の上昇は単なる「食費の問題」ではありません。
実質賃金の伸び悩みや物価構造の変化が、家計の自由度を確実に奪っていることを示しています。

では、この物価上昇は今後も続くのでしょうか。
賃金は物価に追いつき、家計に余裕は戻ってくるのでしょうか。

次回は、日本の物価動向と見通しについて、政府統計をもとに整理します。

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