1. なぜ顧客満足度調査だけでは足りないのか?

顧客満足度調査(詳細はこちら)は、サービス改善やロイヤルティ強化に欠かせない手法です。
しかし、こうした調査で「おおむね満足」という結果が得られていても、なぜか顧客の離脱が止まらない──そんな現象に直面したことはないでしょうか?

その理由の一つに、満足度調査の“構造的な限界”があります。
つまり、「いま現在、つながっている顧客の声」しか聞けないという点です。

実は不満を抱えて離れていった顧客──離脱者・休眠者の中にこそ、組織やサービスを変えるための重要なヒントが埋もれています。

そこで、従来の顧客満足度調査(CS調査)だけでは把握できない「離脱・休眠顧客の本音」にアプローチするための新たな調査手法として、BCS調査(Beyond-CS調査/顧客再接続調査)をご紹介します。

2. 顧客満足度調査をめぐる7つのジレンマ

顧客満足度調査の意義は大きいものの、以下のような“ジレンマ”もつきまといます。

ジレンマ概要
1. 相対評価の壁競合も改善しており、差別化につながりにくい
2. 調査疲れ回答が形骸化し、本音が得られにくい
3. 改善の自己満足化顧客に「改善された」と伝わっていない
4. 戦略性の欠如年次イベント化し、仮説検証に至っていない
5. 改善不能要望への対応困難不満は見えるが対応が難しいケースが多い
6. 定量依存%や平均点のスコア偏重で自由回答などが活かされない
7. 離脱者の声が拾えない満足していたように見えるのに顧客が去っていく

特に最後の「離脱者の声が拾えない」という問題は、顧客との関係性が断たれた後では対話の機会すら持てなくなるという点で、極めて重大です。

3. 満足と不満は別軸で動く ─ Cadotte & Turgeonの分類から学ぶ

重要なのは、満足と不満は単なる連続体の両端ではないということです。

たとえば、Cadotte & Turgeon(1988)の研究では、実際の顧客の苦情・賛辞データをもとに、以下の4分類が提案されています。

【Cadotte & Turgeonの4分類】

分類特徴
不満足要因不足すると不満になるが、満たしても満足にはならない駐車場の有無、営業時間
満足要因提供されると満足だが、なくても不満にはならない広いロビー、大盛りの料理
批判的要因状況により満足にも不満にもなるサービス品質、従業員対応
中立要因ほとんど影響を与えない一部の設備条件など

※Cadotte & Turgeon(1988)の分析は、全米規模のチェーンホテル・レストラン・量販店を対象に、実際の顧客から寄せられた「苦情」および「賛辞」の計3,000件以上の自由記述をもとに行われたものであり、サービス要因と感情評価の関係性を明らかにする信頼性の高い研究として知られています。

この分類は、「不満を取り除けば満足につながる」という単純な前提が通用しないことを示しています。

こうした非対称性を前提とすれば、「満足度が高い=離脱リスクが低い」とは限らないということになります。
つまり、満足と不満は別の評価軸で発生するものであり、「満足度を改善すれば離脱を防げる」という考え方には限界があることを示しているのです。

実際、「特に不満はなかったのに、なぜか取引が減った」「対応にも問題はなかったが、いつの間にか関係が薄れていた」といったケースも見られます。
これは、満足・不満という表面的な評価では捉えきれない“静かな違和感”や、他社との相対比較による選好変化が背景にあることを示唆しています。

4. 離脱・休眠顧客の声を集める「BCS調査(Beyond-CS調査/顧客再接続調査)」とは?

当社がご提案するのが、BCS調査(Beyond-CS調査/顧客再接続調査)です。

この調査は、すでに商品・サービスの利用を停止した顧客、あるいは休眠状態となっている顧客を対象に、「なぜ利用が止まったのか」、「今後の再利用可能性はあるか」を探るものです。

一般に「顧客離脱分析」というと、行動履歴や利用頻度などから離脱を予測する“数値モデル”を想起されるかもしれませんが、BCS調査はそれとは異なります。
BCS調査は、実際に離れた顧客に理由を直接尋ねる“理由探索型”の調査であり、数値に表れにくい心理的要因や違和感の正体に迫ることができるのが特長です。

【BCS調査の特長】

  • 離脱・休眠の背景を把握
    → 満足度調査では見えなかった「最後の決め手」が見えてきます。
  • 再接続の可能性を探る
    → 完全離脱者だけでなく、「使いたいけれど今は止まっている」層にも対応。
  • 将来の改善策と再提案の手がかりに
    → サービス設計や営業活動にも直結する“生の声”が得られます。

5. 声を上げずに離れる顧客 ─ Exit-Voice理論と沈黙行動の分析

顧客満足度調査では捉えきれない「沈黙した離脱」──それは、企業にとって見えづらく、しかし無視できない現象です。
実際には、何の苦情も伝えず、静かに離れていく顧客が少なくありません。

こうした「声を上げずに離れる」行動のメカニズムを理解するうえで、社会学者Hirschman(1970)のExit-Voice理論が参考になります。
顧客が不満を抱いた際、改善を期待して企業に苦情や提案を伝える「Voice(発言)」という行動と、関係を断つ「Exit(退出)」という行動があるとされます。

さらに近年の研究では、顧客が「切り替えよう」と意図した時点と、実際に「切り替え行動に移す」タイミングの間にギャップが存在することも明らかになっています。

評判、価格、サービス失敗、競合広告などが切り替え意図には強く影響するものの、実際の行動には特に「評判」が直接的な影響を与え、さらに切り替えコスト(時間、労力、リスク)がこの関係を調整する役割を果たしているとされます。
つまり、顧客が内心では不満を抱えながらも、様子を見たり、リスクを避けたりしている期間が存在するため、 “表面上は満足しているように見えても、離脱の危険性が潜んでいる”という状況が多いのです。

BCS調査は、このような潜在的な離脱予備軍にも気づくための貴重なきっかけを提供します。

実は、何も言わずに離れる“Exit層”こそが、最も回収が難しく、しかし企業にとっては見過ごせない存在です。BCS調査は、この「Exit」層にあらためて問いかけ、黙って離れた顧客の声を可視化するツールです。

離脱顧客の行動特性を分析した戸谷(2005)は、顧客の不満行動を以下の4つに分類し、それぞれの比率を示しています。

A. 担当者に対して苦情を訴えるが、本部への苦情や否定的口コミ、離脱意図は低い「担当者への苦情型」:28.9%
B. 企業への苦情行動、否定的口コミ、離脱意図すべて高い「全方向苦情型」:45.0%
C. 離脱意図のみが高い「離脱沈黙型」:13.9%
D. 友人知人への否定的口コミと離脱意図が高い「離脱+否定的口コミ型」:12.2%

戸谷(2005)による顧客の不満行動の4分類。A.担当者への苦情型:28.9%、B.全方向苦情型:45.0%、C.離脱沈黙型:13.9%、D.離脱+否定的口コミ型:12.2%

この結果から、企業に苦情を言わずに離れていく顧客が26.1%(C+D)に上ることがわかります。
特に人的対応への不満は、企業への苦情よりも“沈黙と離脱”という行動に現れやすく、満足度調査では検知しにくい傾向があるとされています。

だからこそ、「すでに離れた顧客の本音」に耳を傾けるBCS調査のようなアプローチが、関係再構築の起点として重要なのです。

6. まとめ|“失われた声”が変化の起点になる

顧客満足度調査では見えなかった問題に目を向け、離れていった顧客の声を丁寧に聞くこと。これこそが、サービス改善と再成長の第一歩です。

特にBtoB市場においては、以下のような離脱要因が複雑に絡み合うケースが多く見られます。

  • 品質に対する要求水準の高さ(期待未達による離脱)
  • 顧客とのコミュニケーション不足(関係希薄化)
  • 競合他社との比較優位性(より良い提案・条件への流出)
  • 顧客企業内部の事情(組織変更、担当者交代)

こうした要因は、単なる満足度調査では拾いきれないケースが多いため、離脱・休眠顧客の“声なき変化”を捉えるためのアプローチとしてBCS調査の有効性がますます高まっています。

BCS調査(Beyond-CS調査/顧客再接続調査)は、関係を断ち切った顧客と「もう一度つながる」ための、新しい対話のかたちです。

よくあるご質問|BCS調査(顧客再接続調査)について

【調査の目的と特徴に関するご質問】

顧客満足度調査とBCS調査はどう違うのですか?

顧客満足度調査は、現在つながっている顧客を対象に満足度や改善点を把握するものです。一方BCS調査は、すでに離れてしまった顧客や休眠状態の顧客を対象に、「なぜ離れたのか」「再接続の可能性はあるか」といった本音を探る調査です。

BCS調査は、顧客との関係修復や再接続に本当に役立つのでしょうか?

はい。BCS調査は単なる情報収集ではなく、顧客と再び対話を始めるきっかけをつくるための調査です。企業が「もう一度つながりたい」という誠意をもって声を聞くことで、改善の糸口や再利用の可能性が見えてきます。

【実施主体と第三者支援に関するご質問】

BCS調査では、実施主体は企業自身でしょうか? それとも第三者が代行する形ですか?

BCS調査は、企業自身が主体的に顧客の声を聴くことを重視しています。顧客にとっては、実施主体=接続主体となります。顧客に対して、「もう一度つながりたい」という企業の姿勢がきちんと伝わるよう、私たちは裏方として、設問設計や依頼文作成などで伴走支援を行います。

なぜ第三者の関与が必要なのですか? 自社だけで実施するのは難しいのでしょうか?

BCS調査では、「営業目的ではない」「誠実な傾聴姿勢」が伝わる調査設計が重要です。そのため、第三者による言葉のトーン設計や分析設計の工夫が有効です。ただし、企業の主体性を損なわずに、あくまで後方支援的に関与するのが私たちの立ち位置です。

回答が営業的な意図に警戒されてしまわないか、不安があります。

その懸念はもっともです。そのため当社では、「なぜ今ご意見を伺いたいのか」を丁寧に伝える誠実な依頼文を作成し、売り込みではなく“対話のきっかけ”であることを明確にしていきます。対象者に安心感を与えることが、新たな信頼関係構築の第一歩になります。

【実施方法・効果に関するご質問】

離脱した顧客にアンケートを送っても、回答してもらえるのでしょうか?

適切な手法を取れば、一定の回答率を確保できます。たとえば紙アンケートに返信用封筒を同封したり、誠実な呼びかけ文を添えることで、「答えよう」と思っていただける環境を整えることができます。

BtoBでもBCS調査は有効ですか?

はい、BCS調査はBtoB・BtoCを問わず有効ですが、BtoBならではのメリットもあります。たとえば記名調査や既存の顧客データと連携しやすいため、離脱前後の状況を比較しやすく、改善施策の立案に直結します。

BCS調査は、いきなり本番調査から始めるのではなく、段階的に進めることもできますか?

はい。むしろ、BCS調査では「スモールスタート+段階的ステップアップ」の進め方を強くおすすめしています。

具体的には、まずパイロットテスト(小規模な試行調査)を行い、その結果をもとに以下のような点を検証・改善していきます。

  • 回収率のベースライン(=再接続の可能性の見込み)
  • 設問構成や表現の適切さ(自由回答の得られ方、選択肢の選ばれ方)
  • 回収率を高めるための送付方法・案内文・タイミングの工夫

回収率は、単なる“回答率”ではなく「再接続率」にも直結する重要指標です。特にBtoBの場合は、1件の再接続=再導入による事業インパクトが非常に大きく、慎重な試行→改善→本調査という流れが成功のカギを握ります。

また、パイロット調査で得られた回収率は、貴社と顧客との関係性の「温度感」を測る指標にもなります。そこで得られた知見を活かし、本調査をより効果的に展開することで、単なる情報収集ではなく、実際の再アプローチにつながる調査として機能させることが可能です。

無料相談のご案内|BCS調査(顧客再接続調査)をご検討中の方へ

BCS調査の設計や紙調査・Web調査の実施をご検討の企業様には、無料の個別相談を承っております。
導入をご検討中の方や、自社での実施に不安がある方も、ぜひお気軽にご相談ください。

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