弱みをつぶす vs 強みを伸ばす──その前に考えるべきこと

企業が顧客満足度を高めようとするとき、「弱みをつぶす」か「強みを伸ばす」という2つの方向性があります。

多くの企業は弱みの改善に注力しがちですが、それだけでは「無難だけれど特徴のない」製品・サービスになり、競争優位の確立が難しくなることも少なくありません。

一方、強みを伸ばすことは差別化に直結します。
しかし、“どれだけ強みを伸ばしても、弱みを放置すれば顧客満足は向上しない”という問題もあります。

これには明確な理由があります。

顧客は“満足”より“不満”を重く評価する

複数の研究において、顧客は満足した経験よりも“不満だった経験”のほうを強く記憶し、全体評価にも大きく反映させることが確認されています。

行動経済学のプロスペクト理論では「損失は同程度の利得よりも心理的影響が大きい」とされていますが、不満と満足も同じような関係にあり、「1回の不満を相殺するには複数回の満足が必要」とも言われています。

つまり、強みを伸ばすだけでは弱みを補えず、弱みを放置すれば顧客離脱につながるという構造が存在します。
まさに「穴の空いたバケツに水を注ぐ」状態です。

なお、「満足している=離脱しない」ではない点にも注意が必要です。

多くの研究では、Satisfiers(満足要因)とDissatisfiers(不満要因)はまったく別の次元で評価されるとされており、ある領域に満足していても、別の領域の不満が積み重なれば離脱に至ります。
そのため、満足度スコアだけを見ていると、離脱の兆候を見落とすリスクがあります。

不満は“累積して突然あふれる”──不満足の臨界質量

不満は、一つひとつは小さくても蓄積します。
そして、あるラインを超えると“一気に”解約(離脱)や悪い点の口コミ(ネガティブ口コミ)へつながることが、ウィルキーの不満反応モデルなどでも指摘されています。

[ウィルキーの不満反応5段階モデル]

レベル1不満を感じても、誰にも何も言わない「何もせず我慢」する段階
レベル2二度と買わないと思う「不買い」の段階
レベル3友人・知人に不満を持ったことを伝える「悪い口コミ」をする段階
レベル4店にクレームを告げて問題解決を探る「苦情」を伝える段階
レベル5最も強い不満反応で、公的機関などの「外部機関に訴える」段階

不満がたまって解約などの具体的な行動を起こす転換点を、当社では「不満足の臨界質量」と呼んでいます。

では、この臨界点を引き起こす最大の要因は何でしょうか。

「当たり前品質」は満足を生まないが、欠けると強烈な不満になる

顧客が“当然満たされているはず”と考える領域──これを「当たり前品質」と呼びます。

当たり前品質は、満たしても満足を生まない一方、欠けると即座に不満を生むという特徴があります。
顧客満足研究ではDissatisfiers(不満要因)として扱われ、満たすことが必須であるにもかかわらず、社内では改善優先度が低くなりがちな領域です。

特に以下のような基本品質の低さは、累積不満の原因になります。

  • 問い合わせへの返信が遅い
  • 期待したレベルで問題が解決しない
  • 品質やサービスが安定していない

当たり前品質の欠如は満足を下げるのではなく、直接的に“不満”へと転じるため、優先的に管理されるべきとする研究者もいます。

不満の正体をつかむ最も有効な方法──クリティカル・インシデントの分析

放置すべきでない不満はどこに潜んでいるのか。
その答えをつかむには、顧客の「具体的な不満体験」を把握することが最も確実です。

そのために有効なのが、クリティカル・インシデント法(CIT)です。
CITでは、顧客が“不満を感じた具体的な場面”について、以下のような内容を詳しく語ってもらいます。

  • どんな状況で
  • どんな対応を期待していたのか
  • どの点が「我慢の限界」だったのか

特に、当たり前品質の欠如のように「スコアには表れにくい不満」を明確にできる点がCITの大きなメリットです。
CITにより、表面的な満足度スコアでは見えない本質的なDissatisfiers(不満要因)が明確になります。

不満要因が消えると、顧客の評価が変わる

CITで特定されたDissatisfiers(不満要因)を改善すると、顧客体験の安定性が増します。

  • 問題が起きない
  • ストレスが小さい
  • 信頼できる
  • 面倒がない

という「当たり前」の積み重ねは満足を劇的に引き上げませんが、離脱リスクを減らす“土台”になります。

まとめ──強みを伸ばす前に“防波堤”を固める

不満は満足よりも強く印象に残り、当たり前品質が欠けると即不満につながります。
そして、不満は小さくても累積し、臨界点を超えた瞬間に離脱行動へ転じます。

CIT(クリティカル・インシデント法)によって不満体験を把握し、Dissatisfiers(不満要因)を的確に取り除くことは、満足の“土台”をつくるうえで極めて有効です。

以上をまとめると、不満を生まない土台づくりこそが顧客離脱を防ぐカギになります。
この土台が固まってこそ、企業の「強み」が本当に顧客に伝わるようになります。

また、不満の兆候は、現在の顧客の声だけではとらえきれないことも多くあります。
離脱理由は、むしろ“離れてしまった過去ユーザー”のほうに蓄積されているためです。
「なぜ離れたのか」「どの不満が決定打になったのか」といった本質的な情報は、満足度調査だけでは把握できません。

こうした背景から、当社では離脱・休眠顧客に特化したBCS調査(Beyond-CS調査)も実施しています。

もし、

  • 当たり前品質に見落としがないか?
  • Dissatisfiers(不満要因)が放置されていないか?
  • 顧客の本音として、どの不満が離脱につながりやすいのか?

といった点を客観的に確認したい場合は、当社の無料相談サービスをご活用ください。
改善すべき不満要因の優先順位や、効果が出やすい施策、適切な調査方法をご案内します。

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