調査で顧客ロイヤルティのレベルを確かめたいときに、NPS(ネットプロモータースコア)がよいのか?顧客満足度(CS)がよいのか?

NPSと顧客満足度の相違点やそれぞれのメリット/デメリットを説明して、これらの指標を使って調査結果を具体的な成果につなげていくポイントについて紹介したいと思います。

顧客満足・ロイヤルティの構造

会社の業績を伸ばすには、市場や顧客を理解することが不可欠です。
市場調査で顧客ニーズを理解することで、商品・サービスを改善して顧客に提供する価値を高め、顧客基盤を強化することが可能となります。
その先にある成果が、売り上げの拡大と事業の成長です。

これを下から順に段階が進む形の表にまとめると以下のようになります。

段階内容
5 成果売上拡大→事業成長
4 行動実際に他の人にすすめる・使い続ける・もっとたくさん使う
3 気持ち他の人にすすめたい・使い続けたい・もっとたくさん使いたい
2 評価満足・不満足や好き・嫌い
1 経験商品やサービスの利用

「1 経験」→「2 評価」→「3 気持ち」と段階を進むことで、顧客はすぐれた商品やサービスの利用を通じて満足度が高まり、他の人に推薦したり、使い続けたりしてもよい気持ちが強まります。そして、その気持ちから「4 行動」を起こし、「5 成果」へとつながっていきます。

顧客満足・ロイヤルティの指標

調査では、「1 経験」→「2 評価」→「3 気持ち」の3段階をカバーします。
そして、「5 成果」に直結する「4 行動」のベースとなる2階部分と3階部分を構成する主な指標が、「総合満足度(=顧客満足度)」「推薦意向」「継続利用意向」です。

【具体的な質問例】

①総合満足度
総合的にみて、現在ご利用の○○○(会社やブランド名)についてどの程度満足していますか。

②推薦意向(NPS用)
ご家族や友人などから、△△△(商品・サービスのカテゴリー名)について相談された場合を想定してお答えください。
0~10点で表すとして、現在ご利用の○○○(会社やブランド名)をご家族や友人にすすめる可能性はどのくらいありますか。
※点数が高い=すすめる可能性が高い、とお考えください。

③継続利用意向
現時点で、現在ご利用の○○○(会社やブランド名)を、どの程度継続して利用したいと考えていますか。

上述の3指標のうちの「推薦意向」について、9~10点の評価者を「推奨者」、7~8点の評価者を「中立者」、0~6点の評価者を「批判者」として、「推奨者」の割合から「批判者」の割合を引いた値がNPSです。景気動向指数のひとつであるDI: Diffusion Index(ディフュージョン・インデックス)と同じような算出方法で、DIには「変化の方向性をとらえやすい」特徴があります。

推薦意向と満足度の相関は高い

以下に示すようにNPSのもととなる「推薦意向」と顧客満足度(CS)そのものである「総合満足度」の間には高い相関があります。
「満足」できる良い商品・サービスだからこそ、他の人にも「推薦」しようという気持ちになるわけですから、これは当たり前の話です。

※相関については別のコラム「相関を見る際の注意点」をご参照ください。

顧客ロイヤルティ指標間の相関

評価レベルの分布に注意が必要

「推薦意向」にしろ、「総合満足度」にしろ、日本人を対象とした調査では中間評価者の割合が非常に高くなります。
これに対して、NPSの母国アメリカでは、普通に良ければ満点に近い点数をつける人の割合が高くなります。

日米の評価分布の比較

高すぎる満足度よりはNPS

顧客満足度(CS)では5段階評価の「5 非常に満足」と「4 満足」を合計した割合をTop 2 Box(トップ2ボックス)スコアとしてみることが多いのですが、アメリカではトップ2ボックススコアが高すぎて危機感を感じにくくなってしまうケースがありそうです。
それに対して、NPSでは9~10点をつけた「推奨者」割合から0~6点をつけた「批判者」割合を引くことで、高すぎずに、もう少しの伸びしろが感じられる程よいレベルになるのでしょう。

日本では、NPSはマイナスがあたりまえ

一方、中間評価者のボリュームが厚い日本では、多くの場合、NPSはマイナスのスコアになります。
顧客関係のパフォーマンスを把握するための調査は1回きりではなく、定期的に実施していくべきものですが、たとえば、改善のための取り組みを頑張った結果、「今回、NPSが改善してマイナス15ポイントになりました」と言われても、あまりうれしくないような気がします。

NPSを使う場合は、n=1,000以上のサンプルサイズが欲しい

ところで、調査には誤差がつきものです。
たとえば5%分が誤差だった場合、「推奨者」の割合は実際よりも5ポイント高く、「批判者」の割合は実際よりも5%低いというケースが考えられるでしょう。
この場合、NPSを算出するときに、

「『推奨者』 + 5%」 - 「『批判者』 - 5%」 = 「『推奨者』 - 『批判者』」 + 「『5%』 + 『5%』」

となり、誤差分が10%に拡大してしまいます。

NPSを使う場合、誤差が大きくなりすぎないように、サンプルサイズを大きめにするのがよいでしょう。できれば、n=1,000以上が欲しいところです。

実際の行動までは追えないという調査の限界

調査でみることができるのは、あくまでも気持ちの強さです。
推薦意向が高いからと言って、実際に口コミしてくれるわけではありません。

以下は、「推奨者」「中立者」「批判者」のそれぞれについて、実際に口コミをしたかどうかを調べた結果です。

推薦意向が高くても実際に推薦してくれる人は1割程度

推奨者・中立者・批判者による口コミ発信

確かに、「推奨者」は「批判者」の5倍以上口コミをしています。
しかし、その割合はようやく10%を超えた程度です。

単一指標よりも複合指標

「気持ち」と「行動」の間には大きなギャップがあるわけで、これが調査の限界でもあります。
調査の可能性を少しでも拡げるには、1つの指標だけに頼るのではなく、複数の指標を見ていくことが有効です。
いろんな角度から照らすことで、よりはっきりと見ることができます。

単一指標と複合指標

調査をして現状をできるだけ正確に把握するためには、顧客満足・ロイヤルティの2階・3階部分をカバーする「総合満足度」「推薦意向」「継続利用意向」を複合指標としてみることをおすすめします。

NPSや満足度(CS)は目印に過ぎない

NPSや顧客満足度は、調査が目的とする売り上げの拡大や事業の成長といった「成果」と、そこにつながる具体的なアクションを結び付ける目印のようなものです。

NPSや顧客満足度が「上がった」「下がった」だけでは、どうやって成果を出していけばよいのかの方法論を見つけることができません。

満足度・ロイヤルティ指標で顧客関係の現状のパフォーマンスを把握できたら、次にパフォーマンスを改善するために、具体的に何をどうすればよいのかを知る必要があります。

成果につながる具体的なアクション項目を特定することが重要

そこで重要になるのが1階部分の「経験」パートです。
「わが社の強みはこの部分」「ユーザーはここをみているかも」「競合に比べるとここが弱いかも」といった仮説を組み立てて、それを調査項目に仕立てます。

また、調査ボリューム上の制限もあって、必要なポイントをすべて調査項目に盛り込むことは難しいため、自由回答で評価理由を具体的に記述してもらうようにしておくと、想定外の情報もキャッチすることができます。

調査結果が出てきたら、満足度・ロイヤルティ指標と具体的な利用経験の評価の関係性を分析して、満足度・ロイヤルティに効く重要要素を特定します。
そして、具体的な評価理由も参考にしながら、商品・サービスの利用「経験」の質を高めるアクションプランを検討し、実行に移していくことで、調査を具体的な「成果」につなげていくことができます。

まとめ

NPSと顧客満足度に関して、「顧客満足度は古い」とか、「NPSの方が業績に連動していて優れている」というような説明をみかけることがあります。

しかし、20年以上顧客ロイヤルティを調査し、分析してきた経験から申し上げると、NPSが「究極の質問」「唯一の質問」というものではなく、NPSでも顧客満足度でもどちらも同じようなものです。どういった指標を使うか?も大切ですが、それ以上に重要なのが、どうやって成果につなげるか?です。

指標に求められるのは信頼性であって、その意味ではどれか一つの指標に頼るのではなく、複数の指標を重ね合わせて会社のパフォーマンスをみていくべきです。
ただし、社内を動かしていくときにはどれか一つに焦点をあわせて目印として、全社員の関心と理解がそこに集中するようにします。

その際には、自社の満足度レベルや収集可能なサンプルサイズに鑑みて、シンプルでわかりやすいものを一つ選んで、社内共有用のトラッキング指標として活用するのがよいでしょう。

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