世界中の注目を集めた、EU離脱の是非をめぐるイギリスの国民投票は、離脱:51.9%、残留:48.1%と、僅差ながらも離脱派が勝利するという衝撃の結末となりました(投票率は72.2%)。

事前の世論調査で両勢力は拮抗していたものの、投票が近づくにつれ残留派優勢を伝える調査結果が出始め、開票前頃にはやや楽観ムードも漂っていたように思います。そのため、予想外の結果はネガティブ・サプライズとなり、まずは金融市場に大混乱をもたらしましたが、不透明な政治状況がしばらく続くことで本格的な影響が見えてくるのはこれからと覚悟しておいた方がよいでしょう。

今回の結果により一部では世論調査の精度を疑問視する向きもあるようですが、実際の投票行動は当日の天候なども含めさまざまな要因に左右されますし、事前調査の結果自体が投票に影響してしまうこともありますので、特に今回のような僅差の場合は非常に予測が困難だったといえます。

国民全員を対象とする国勢調査などの全数調査と異なり、母集団(全体)の一部のみを調査対象とする標本(サンプル)調査の場合、調査で得られたスコア(観測値)は母集団における“真のスコア”と必ずしも一致しないので、ある程度の幅(=標本誤差)を見込む必要があります。

標本誤差は統計的に算出することができ、サンプル数が大きいほど誤差は小さくなります。
なお、標本誤差は観測値が50%の時に最大になるのですが、サンプル数が1,000人の時は±3%程度、2,000人でも±2%程度の誤差があります。このことは二者択一で勢力が拮抗している場合(両者とも50%前後になる)の勝敗を予測するのが難しいことを統計的にも示しています。

=また、この標本誤差は調査サンプルが母集団の縮図となっていることが前提です。近年はプライバシー意識の高まりなどで調査環境が厳しくなり、母集団からランダムに調査サンプルを抽出して代表性を確保することが難しくなってきています。調査サンプルに偏りがあれば当然のことながら標本誤差も大きくなります。性別や年代などのデモグラフィック属性は母集団の構成比に合わせて補正することも可能ですが、ライフスタイルや政治信条といった心理面については補正困難ですので、やはり調査サンプルの代表性に疑問がある場合には標本誤差を多めに見積もっておいた方がよいかと思います。

世論調査はイギリス国民投票の予測を外したのか?

6月23日のイギリスの国民投票終了直後に、YouGovという調査会社が当日の調査結果(投票を済ませた人を対象にしたインターネット調査)を発表しました。
ちなみに、YouGovは2014年のスコットランド独立に関する住民投票などの際に精度の高い予測データを出した実績のある調査会社です。
その結果は、残留:52%、離脱:48%と残留派が上回っていました。

調査サンプル数や小数点以下の数字(52%は51.6%~52.4%の間であると考えられます)が不明なのですが、±3%程度の誤差があると想定すれば実際の結果が離脱派の勝利であっても不思議ではありません。

国民投票のようなケースで、どちらが勝ってもおかしくない、では調査結果を公表する意味がないので仕方ない面はありますが、受け取る側は慎重に判断する必要がありますね。

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