日々の生活を営むことは小さな意思決定の連続です。
ふだんは特に意識することなく判断していることが多いでしょうし、たいていの場合はそれで大過なく過ごせるでしょうが、直観的な判断は時として統計・確率的に誤りである可能性もあります。

20年以上前に、著名な数学者も頭を悩ませた「モンティ・ホール問題」というものがありました。
モンティ・ホールはアメリカのテレビ番組の司会者の名前で、クイズの勝利者が賞品をかけたチャレンジを行うのですが、問題の設定は以下の通りです。

・3つのドアの向こうに、賞品(高級車)が1つ、ハズレ(ヤギ)が2つ
・まず挑戦者がドアを1つ選ぶ(この時点ではまだドアを開けない)
・残りの2つのドアのうち、司会者がハズレのドアを開けて見せる(司会者は賞品のありかを知っていて、必ずハズレのドアを開けられる。挑戦者が最初に当たりのドアを選んでいる場合には、2つのハズレのドアのうちランダムに一方を選んで開ける)
・その後、司会者が「選ぶドアを変えてもいいですよ」と言う

さて、この時、あなたなら

A.最初に選んだドアのまま変えない
B.もう一方のドアに変える

どちらを選択するでしょうか。

「残りのドアは2つで、どちらかに賞品があるわけだから、当たる確率は2分の1では?」と考えると「A」「B」どちらの選択もありですが、「もしドアを変更してハズレだったら嫌だなぁ」という心理も働いて「A」を選ぶ人が多いのではないでしょうか。

「モンティ・ホール問題」は雑誌の質問コーナーに投稿されたのですが、回答者のマリリン・ボス・サバントは「B. ドアを変更する」のが正しい、と言いました。ちなみに彼女はIQ228ともいわれ、IQのギネス記録を持っている天才ですが、この時は彼女の回答に納得できない読者から批判が殺到したそうで、その中には確率を専門とする数学者も含まれていました。
「B」が正しいことの説明をすんなり納得してもらうのはなかなか難しいのですが…
まず、最初にドアを選んだ時点で賞品が当たる確率は1/3、ハズレの確率は2/3ですね。
「A」すなわちドアを変えない場合、司会者がハズレのドアを1つ開けた後でもこの確率は変わりません。つまり、賞品が当たる確率は1/3のままです。従って、ドアが残り2つとなった段階でもう一方のドアを選ぶ「B」で賞品を得られる確率は2/3と、当せん確率が2倍になるのです。
ドアを変更して賞品が当たるということは、最初に選んだドアがハズレだった場合(確率は2/3)なわけですから「B」の方が有利、ということで納得していただけるでしょうか。
実際に実験を繰り返してみると、確かに「B」が正しいことは認めざるを得ないのですが、感覚的にはどうしてもモヤモヤした感じが残ってしまうかもしれません。

「モンティ・ホール問題」で司会者がハズレのドアを開ける、といったように、確率を考える条件が途中で変わる設定は「ベイズ推定」と呼ばれる思考法に関係するのですが、「ベイズ推定」についてはいずれ別の事例を紹介しながら稿を改めて採り上げたいと思っています。

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