今年のノーベル経済学賞は、米プリンストン大学のアンガス・ディートン教授が受賞しました。ディートン教授の業績は消費行動モデルの構築から貧困・福祉の問題まで多岐にわたります。

経済学賞は他のノーベル賞とは設立の経緯が異なりますが、学際的な分野でもあるため、経済学以外の研究者も授賞の対象となりえる点に特徴があります。実際、過去には数学者や心理学者なども受賞しており、社会科学系を中心に幅広い研究分野が評価の対象に含まれる意義は大きいと思います。

さて、貧困・福祉の問題に関して、ディートン教授の研究は途上国が中心でしたが、格差と貧困は先進国を含めた世界的な課題です。

貧困については、まずは生活に必要な最低限の食料や生活必需品を購うことができない「絶対的貧困」が問題となります。世界銀行では1日1.9ドルの所得を貧困ラインに設定しているのですが、2012年時点での貧困率は世界全体の12.7%(8億9600万人)と推計されており、この割合をまずは一桁、将来的には3%にまで下げることを目標に掲げています。

一方、国や地域によって物価水準が異なり、必要最低限の所得レベルも変わってきますので、所得の絶対水準ではなく国内における所得格差に注目する「相対的貧困」という考え方もあります。物質的に豊かな先進国における相対的貧困は、精神的なダメージにおいて絶対的貧困以上のリアルな切実さがあるとされています。
OECDの定義に基づく厚生労働省の「相対的貧困率」説明図は以下の通りです。

格差と貧困

この数字は、OECD加盟34カ国中、イスラエル(21%)、メキシコ(20%)、トルコ(19%)、チリ(18%)、アメリカ合衆国(17%)に続いて高い割合となっています。

所得格差を表す指標としては他に「ジニ係数」があります。
こちらは貧困より不平等に焦点を当てて所得の偏在状況を示すものです。

格差と貧困

<ジニ係数とは> *厚生労働省の説明資料より抜粋

厚生労働省で3年おきに実施している「所得再分配調査」によると、ジニ係数は回を追うごとに上昇し、2005年以降は慢性的暴動が起こりやすいと考えられる0.5以上の危険ラインを超えています。ただし、税や社会保障による再分配後の所得でみると0.38前後に改善し、こちらの数字だと比較的格差が少なく安定した社会といえます。

ちなみに、今年7月時点における生活保護の受給世帯数(概数)は全国で約162万世帯、その半数近くを65歳以上の高齢者世帯が占めています。人数ベースでの保護率は1.71%となります。

人口の高齢化や単身世帯の増加、就労環境の変化など、貧困関連の統計数字を見る際には社会背景を考慮して解釈する必要がありますが、統計に表れない貧困の存在、本人の自己責任とはいえない事情で公的扶助にも頼れず苦しい生活を強いられている人達の存在にも思いを馳せなければならないでしょう。

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